すさまじい断崖の小さなくぼみに、ねじ込むように建てられた「投入堂」というお堂がある。そこまで行くのは崖登りに近い相当な危険と労力が伴うために、日本一危険な国宝と呼ばれることもあるそうだ。なにそれ、ハートをくすぐられる。
僕は何年もここに行きたいと思っていた。2024年10月にその足元までは行ったのだけども、「今日は雨だし誰かと一緒じゃないとダメ」みたいに断られてしまった。知ってたけど。
今回はそこに至った経緯と、投入堂を有する「三徳山 三佛寺」のその他の社殿等をご紹介しよう。
遥拝所から投入堂は見られるぞ
果たして雨は止むのか?
「天気は大丈夫だ、きっと大丈夫だ」と、自分自身に言い聞かせた。なぜなら天気予報が雨のち晴れだからだ。雨なのは早朝だけだ。ならばこれ、既に勝ち筋が見えているってヤツであろう。
雨上がりの午前6時台。いい感じの雲がモクモク出てきて、10月も半ばに差し掛かるというのに夏空のような雰囲気だ。ステキ。
なんてこった。また雨が降ってきた。投入堂が位置するのは鳥取県のかなりの山間部。やっぱ山の中だから雨が降りやすいのかなぁ…。
雨雲レーダーを見てみた。8:00に雨は止むという。ちなみに投入堂に登山開始になる時刻は8:00からであり、それに合わせて僕は現地に向かっている。神がかり的なタイミングで晴れてくれや。
途中の道すがら、投入堂の写真付き看板があったので撮影した。しかしザーザー降りしきる雨にフォーカスが合ってしまった。雨、オメーじゃねぇんだよ撮影したいのは。どけや!
…でも、「この先に本当に投入堂があるんだろうか…」っていうくらいに山間部の寂しい道で車1台もいなかったので、ちょっと勇気出たよ。
「投入堂遥拝所」に到着した。ここは投入堂を遠望できるスポットであり、そこまで登るのがシンドい人であっても気軽に参拝できるように造られた展望所である。
駐車場も3台分ほどあり、展望所のすぐ横まで車で行けるのもありがたい。時刻は7:45であり、まだ雨の止む予定、そして登山開始可能時刻まで15分あるので先にここに立ち寄った次第だ。
だが「この雨は止むのかな…」ってくらいに激しい。僕は今回カサを持って来ていないので、駐車場のすぐ脇にある遥拝所に行くことすら困難だ。なんてこった。
遥拝所から見上げる投入堂
車内で数分モジモジしていたらカサが無くても大丈夫そうなくらいに小降りになったので、遥拝所から投入堂を見てみるわ。
まずはこれ、肉眼で見たときの様子。赤丸で囲った部分を思いっきり拡大するのと投入堂が見える。
おぉ、あそこまで行くんだね…!確かになかなかの斜度だ。高度もある。ただね、正直感じたのは「あれよりも北海道の太田山神社攻略の方が難しいんじゃないかな…」ってことだった。
そのときの記事のリンクを貼っておくね。
僕は冒頭記載の通り今回は投入堂登山ができなかったので比べようがないんだけど、両方攻略した人、どうだった??感想聞かせてほしい。
遥拝所には双眼鏡がある。…が、双眼鏡越しの写真は難しいし、僕のカメラはズーム性能がそこそこあるので、これはカメラをズームしたときの写真だ。
しっかりと見えたぞ。メッチャクチャ不安定な断崖の中腹の斜めの足場に、無理矢理お堂を建てている。わけわからん。
伝説では『役行者が法力でお堂を手のひらに乗るほどに小さくし、断崖に投げ入れた』とされているけども、もちろん実際は誰かが頑張って建てたのだろう。
最初に建てられたのは1300年前の平安時代だと言われている。当時の技術で、あんなところにあんな不安定なお堂をどうやって建てたのか、現代でも解明されていないらしい。
「あそこにどうやって建てたのか」ってのもあるけど、それ以前に「なぜあそこに建てようとしたのか」って部分で僕の理解を超越しているわ。
確かに眺望はいいし、時間帯によっては日当たりもいいし、風通し良くって洗濯物も乾きそうだけど、もし僕があそこにマイホームを建てたいと言い出したら家族に止められるだろう。
そりゃあね、わかるよ。修験のためのものであり、俗世間から隔離させ、身も心もギリギリのところで悟りを開こうとしたって理屈、わかるよ。
それでも、そのプランを実行に移した人も、あのお堂自体も、大層にエクストリームじゃないか。そんな唯一無二の存在だからこそ、僕はずっと気になっていたんだしね。
三徳山_三佛寺の境内を巡る
投入堂登山の夢は散る
さて、改めて投入堂への登山口に近い駐車場に車を停め直した僕は、投入堂を有する三徳山 三佛寺の入口付近に来ている。
雨雲レーダーの宣告通りに8:00ちょうどに雨は止み、一部青空まで覗いてきた。良い兆候じゃないか。
ただし山道は雨でドロドロだろう。にわか雨も降るかもしれない。
…にもかかわらず、雨具もないし軍手もないし、上着もないし靴は革靴だ。ちょっと事情があってそういう装備は持参できなかったのだ。でも不適切な靴の人は境内でわらじを購入できるそうだから、わらじにすべてを託すよ、僕。
車道から境内への入口がここ。いきなりなかなかの傾斜の階段がお出迎えしてくれる。「こんなところで息を切らすようでは、投入堂まで登る資格なし」って言われているような気分だ。
ナメるな。運動不足の人間にもプライドがある。プライドだけでも山は登れる。たぶん。
これは、登山中に現在地を確認できるように撮影しておいた境内MAPだ。
向かって右側の本堂までは誰でも気軽に拝観できる。本堂から左、赤い線が延びている部分が山道であり、手続きをした選ばれしもののみが足を踏み入れられる地だ。
一番左上がゴールの投入堂だ。本堂から投入堂の往復は、1時間半~2時間と言われている。
ま、行けるだろう。
運動不足の僕ではあるが、実は登山の登りはなかなかの速さであり、標準タイムの倍は出るのだ。片道20分で行けるわ。必要なのは筋力じゃないんだよ、全身のバネなんだよ。
登山の心得っぽい看板も撮影しておいた。登山には1200円が必要。境内に立ち入る時点で400円必要だが、山道ゾーンでさらにプラス1200円だ。
そして2人以上で入山するのも掟の1つ。レジャー登山気分や、観光装備での入山も禁止だ。
全部事前に公式Webページで見て知っている状態で来たけどね。
レジャー登山気分…。正直冒険心で来ていることは否めない。だが心の中までは透過されないだろう。もし目的を聞かれたら「日本の未来を憂いて」とか答えよう。
観光装備…。少なくとも前述の通り修験者装備ではない。バッグにはノートPCとかモバイルバッテリーとかワイヤレスイヤホンが入っているけど、これは観光装備?ビジネス装備?
ブハァ…。まだ境内の案内所にも着いていないのに、ちょっと息が切れた。運動不足だ。なんだよ、全身のバネって。
上の写真、階段の先に見えているのが参拝者受付案内所だ。
案内所で「こんにちはー、入りたいんですけど」と言うと、「はい。それでは400円お願いします。」と言われた。
投入堂までの登山をするかどうか聞かれることなく、本堂までの境内参拝用の案内をされたってワケだ。カクゴはしていたけどね。「やっぱりか」って思ったけどね。
一応聞いた。「投入堂にも興味あったんですけど、やっぱ行けない感じですか?」って。
「今日は雨なので足元相当悪いですし。天候悪い日は入れないのです。それにこんな感じのかなり危険な崖登りのようなところが多いので、2人以上で助け合いながら行ってもらうんです。」と、登山路のパネル写真と共に説明を受けた。
ルール通りだった。やっぱダメだった。
「承知です。じゃあいつか、晴れの日に誰かと一緒に来ます。」と宣言し、本堂までの参拝に切り替えることにした。
ちゃんとした装備も持っていないし、あまり汚したくない服だったし、時間の余裕もそんなには無かった。残念な反面、少しだけ安心した自分もいた。
本堂で煙に巻かれた
それでは本堂までの境内を歩いてみようか。
一番最初に出てきた施設は皆成院というらしい。門扉に掲示してあった木札を見る限り、宿坊も兼ねているそうだ。
ひとまず参拝してみた。内部に上がれそうな気もするが、ダメだったときにヘコむし、どうしても上がりたい気持ちでもないので、外観だけを見学することとした。
内部は居心地良さそうだな。天気のいい日にあの縁側のちょっと奥で読書しながらゴロゴロしたいや。
あと、ここの敷地内に池があって大きい鯉が泳いでいたのでそいつをボケッと眺めた。鯉はいいよね。小さい頃は学校の校庭の池にいたり近所のスーパーの前になぜか設置してあった池にいたりして永久に眺めていた。大人になってからはなかなかゆっくり鯉を眺めるチャンスがない。
次は正善院。ここの庭園は2つの池から構成されていて、それがどうのこうの、という説明板があった。ただ「本日貸切」みたいな掲示もあったので、門のところから外観を遠望するだけにした。
茅葺き屋根がクールじゃないか。あと、青空がさらに広がってきてとても良い。
小さな売店の先に輪光院の門が見えてきた。
ちなみに売店ではわらじも売っていた。わらじ、買いたかったなぁ。いや、登山しなくっても買えるのだろうが、買ったからには登りたい。なので買わない。
Webによると、どうやら中では予約制で精進料理を食べられたりするそうだ。今回の僕には全く関係ないけどな。こういうところでご飯を食べるのも風流だよな、いつかやりたい。
ところで、この輪光院を出た瞬間が一番晴れた。温かい光がピカッと僕まで届いた。一瞬だけども「じゃあもう僕も投入堂まで登っていいんじゃない?許可出そうよ。」って思った。
そこから100mほど進んだところには宝物殿があるのだが、9:00からの開始だ。「まぁいいっか」って思ってスルーしたのだが、後日パンフレットを見てみると拝観料400円には宝物殿の見学料も含まれていたようだ。
僕が訪問した時間はOPEN前だったのだが、あと30分時間をつぶして宝物殿も見るべきだったのかどうか、今も結論が出ていない。
さらに先の本殿に向かっていると、いきなり雨が降ってきた。さっき青空を眺めてからほんの3分ほどなのに。やっぱ今日は投入堂には登るべきではなかったのだ。良かった。
お堂の軒下で数分雨宿りをしたら止んできたけど。
本殿では掃き掃除をしている関係者の方とご挨拶。「本殿の中も見学できるのでどうぞお入りください」と言われたので、後で入ろうと思う。
本殿近辺の雰囲気がいいな。杉の木が立派だ。そしてこの立ち込める霞。なんか荘厳な感じがするよね。境内をどんどん高いところに登っているから、霞も出ているのかもしれないね。
なんだか雲海のようだね。石垣から見下ろす霞、以前に兵庫県で見た"天空の城"「竹田城」を彷彿とさせたよ。
…いや、でも霞や霧にしては濃度が濃すぎやしませんか?それと、なんか遠くから「ゲホォ!!」という咳き込みの声が聞こえてくるのは何。
うん、最初からわかっていたけどね。松だ。たぶん境内の端で生乾きの松の枝かなんかを燃やしたのだ。風向きが悪かったこともあり、境内全体がスモーキーになっているのだ。見ろ、宝物殿が燻されているぞ。燻製のようだ、ゲラヘゲラ。
「ゲホォォ!!」
僕のいる本殿にも煙が登ってきてなんも見えなくなった。目が痛い、ついでに臭い。でもちょっと楽しい。
気を取り直して本殿だ。森の中の佇まいがかわいい雰囲気と神聖な雰囲気を両立させている。参拝し、そしてお薦めいただいた通り中に足を踏み込んでみた。
この神社仏閣特有の、ピリッとした雰囲気が僕は好きだよ。
「慈覚大師円仁」が西暦849年に三尊仏(釈迦・阿弥陀・大日)を本尊として安置したから、三佛寺っていうネーミングになったんだって。
なるほど、ここも円仁さん絡みなのか。円仁さんって東日本に所縁が深いけど、中国地方でも活躍したのだね。
内部には仁王像も立っていた。サイズはあまり大きくはなく、外国のプロレスラーと同じくらい。つまり僕がケンカ吹っ掛けたら瞬殺なことには変わりない。
本殿の縁側的な部分に沿って外周をグルリと歩いていると、裏側にこんな建物があった。
パンフによれば、あれは登山参拝事務所だね。この先の山岳ルートのスタートしh点であり、ゴール地点だ。
今日は悪天で登山禁止なので、本殿の裏には入り込むことすらできない。本殿からカメラのズームで眺めるのが今日の精一杯なのだ。
…今回はこれでいい。次回、いつか投入堂にアタックする日のための布石が充分に整ったと考えよう。こういうエピソードが前段としてあったほうが、本戦が盛り上がるもんね。
こうして境内見学を終え、車に戻ると同時に雨がザーーッと降ってきた。
危ない危ない。
豪雨なのでもはや山の上の投入堂を見上げてもわからない状態であったが、いつかあそこまで登る日にしっかりカメラに収めてやるからいいのだ。
投入堂、また会う日まで!!
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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