ー「この怪しい鍾乳洞をどうやって見つけて来たんですか?」ー
オーナーは笑みを浮かべながらそう聞いてきた。
南国宮古島。そう聞くと僕らはまずは青いサンゴ礁の海をイメージする。しかしだ、今回は陸の方にも目を向けたい。
だから僕はあえて宮古島の鍾乳洞を目指してみることとした。かなり場所がわかりづらいしマイナーだとは聞いていたが、だからこそ好奇心を刺激されるのだ。
ましてや… ー。
…そう、ここは重要だから聞いてくれ。
…ましてや、今は雨なのだ。これじゃあ海も空も灰色に染まってしまう。
こんなときにどうするかっていうのを、僕は常々考えていた。何ごともリスクマネジメントをしておくことで、突発的に生じたネガティブファクターにも冷静に対処できるのだ。
ゆえに!
「雨が降った?ならば鍾乳洞に行けばいいじゃない?」と、優秀なマリー・アントワネットみたいなことをつぶやき、島の南部方向に一直線に向かうことにしたのだ。
どこにあるのか鍾乳洞
僕は「仲原(なかばり)鍾乳洞」に向かっていた。
事前に少しWebを調べたところによると、非常に場所がわかりづらいとのことだ。
そんな情報を目にし、僕は軽く鼻で笑った。いつの時代の情報だか知らないが、令和時代にはカーナビがあるのだ。住所情報を入れれば迷うはずなし。
ましてやこの僕は、今までに日本6周を走っており数々のマイナー観光地を巡っている。そんな僕にかかれば見つけられないスポットなんぞない。
いや、なんかさっきから不穏な景色が続いているなぁ…。観光スポットがありそうな雰囲気がゼロだ。標識も看板も何もない。
それとなんでこのカメラ、ピントが合わないのかなぁ…。
カーナビが『ピローン。目的地に到着しました。』と発して、一仕事を終えたかのように押し黙った。
は!?ここのどこが鍾乳洞なのだよ。洞窟があるということは、山なり谷なり起伏のある土地じゃないといけない。いや、縦穴っていうアクロバティックなパターンもあるかもしれないけどさ。
でも見てくれ、上の写真を。ド平原じゃないか。ビックリして僕は車外に出て、この写真を撮影した。さて、カーナビは壊れているのだろうか?どうしたもんだろうか…。
上の写真の車の鼻先あたりに向こうを向いている看板があるのがわかるだろうか?僕はひとまずそれを確認してみた。
おぉ、仲原鍾乳洞を示す看板!初めて看板出てきた!
そして看板には鍾乳洞の写真が掲載されている。見た感じなかなかの規模感だが、こんなものがありそうな場所は視界にはないぞ…。ナビによると遠くても100m以内にはあるのだが…。
あなたにも同じ気持ちを味わってほしいので、僕が車を停めた交差点と看板の示す方向が入ったGoogleマップのストリートビューを掲載するね。
ぜひこのビューを360度グルグル動かして、大平野感を味わってほしい。僕、小雨の降る日に1人でここまでさまよってきたんだぜ。想像しただけで不安になるだろ?
150mほど進むと『仲原鍾乳洞』と書かれた空き地が出てきた。申し訳程度の大きさの「営業中」の札も出ている。とりあえず見つけたぞ、よかった。受付は写真に向かって左手の木立の中にあるらしい。
おや待て。看板の後ろの小高い山。この頂付近に小さなボートが乗っかっているぜ。
なんなんだよこのシチュエーション。船を停泊していたら土地が隆起したのかな。そんなワケあるか。てゆーかここ、結構な内陸部だぞ。
何もかもがワケわからないが、ナゾの期待値だけが爆上がりしてきた。きっとここは大層に芳ばしいスポットに違いない…!
ハンドメイド感あふれる世界へ
駐車場から「受付」と書かれた方面に歩くと、木立の間に入って行った。
なんかチラリと右方向に目をやると、観光地臭ゼロのロケーションが広がっている。ホントにこっちでいいんだろうな?他人の農園に迷い込んでいないだろうな?
お、受付の建物が見えてきたようだ。
ウェルカムモードが控えめでとても庶民的な雰囲気の漂う受付の建物。もしかしたら普通の人なら「ホントにここ?大丈夫?」って一瞬躊躇するかもしれないが、ようやく辿り着いた温度感で僕の心は踊っていた。サッシを開けて中へと入る。
オーナーさんご夫妻がいて、受付案内をしてくれた。オーナーさんは「この怪しい鍾乳洞をどうやって見つけて来たんですか?」と聞いてきた。
あぁ、こういう質問をしてくるような人、僕は大好きだよ。正直に答えた。
次に壁面の図面を使って鍾乳洞内部の話をしてくれた。まずはこの受付棟の奥から地下に15mほど降りていくそうだ。洞内は150mほどの距離であり、15分ほどの観光時間だそうだ。料金は600円。
しっかしこの図面、クオリティがとんがっているなぁ。気に入りすぎて「これスゲー好き。写真撮っていいですか?」って聞いて許可を得て撮影したよ。
オーナーさんがホームセンターで買ってきたものを使って手作りしたそうだ。なるほど、パズルマットだね、これ。
シンプルでチープだが非常にわかりやすいのでこれを使ってご説明しよう。
右上の車が駐車場。そこから左に行き、家みたいなシンボルのあるところが現在地。
今からさらに左に行き、写真左端のピンク色の階段を下りて地下に入り込む。その先の緑のモジャモジャは植物が生い茂っている癒しの空間なのだそうだ。
そこから右、つまりは受付棟や駐車場の地下に当たるところが鍾乳洞だ。
じゃあ行こう。いきなりちょっと不安になるような入口だけども、ここから階段で大地の割れ目みたいなところを下に降りていくのだ。
あぁ、ちょうどこの少し先がさっき車を停めた交差点であり、カーナビが「目的地に到着した」と言ったあたりなのだろうな。全然わからなかったね。
雨、ちょうど完全に止んでくれた。よかった。
このゲローンと口を開けた幌つきの階段からアンダーワールドに入っていくよ。
谷底まで降りてきた後、階段を振り返った。手造り感がとてもよい。屋根部分のズルズルッぷりが芸術の域に入っていると思う。
ポトスもじゃもじゃワールド
今は地下15mほどの部分にいるらしい。しかしまだ洞窟ではないよ。大地の割れ目の谷底だ。
ここからさらに、ビールケースを逆さまにして並べたような遊歩道を先に進んでいく。
…あれ?この両側に生い茂っている緑の植物、なんだか見覚えがあるような…。そう思って観察し、確信を得た。
これはポトスだね。どこにでもある観葉植物のポトスだ。それがワイルドにこんなにも育っているのだ。
ポトスって、もともと南国の植物で寒さには弱い。だから沖縄でなければ屋外では冬越しできないだろう。一般的な認識では屋内の観葉植物。
さらにはポトスは直射日光を嫌う。ツル性の植物であり、もともと他の植物や崖などに絡まりながら成長するタイプなので、明るめの日影が好きなのだ。
その点もこの渓谷の谷底は条件を満たしているってわけだ。野生のポトスによって日本一適した場所。適度な湿気もあるしな。
ポトスってね、上向きに伸びていくと徐々に葉っぱが大きくなるのよ。
観葉植物として飾る場合は天井から吊り下げたりするケースが多いかもしれないけど、そうすると先端に行くにつれてどんどん葉が小さくなるのよ。
当然ここのは崖部分を掴んで上に向かっているので、どんどん葉が巨大化する。上の方は40cmくらいはありそうだな。モンスター化しておる。
鍾乳洞の入口が見えてきた。入口は広いウッドデッキになっていてイスが置かれている。なんだなんだ、いい空間じゃないか。インスタ映えしそうじゃないか。
座ってみた。優しい木漏れ日が地表から降り注いで気持ちよさそうに見えるでしょ。実際はここすんごい湿気で「うほぉ…」ってなってた。むせかえるような湿気。
ただね、それでもここでひとときを過ごしてみたかったのよ。なんかここまで僕ポトスこのとばっか書いていて全然本題の鍾乳洞の話に入らないけど、僕は観葉植物が好きなのよ。
特にポトスは中学生の頃から育てていて株分けとかして、今も当時の株の分身を育てている。だから興味があったのだ。
ちょっと時系列をすっ飛ばすけど、最後にオーナーさんに挨拶したときにも「あれはポトスですよね!あんなの初めて見た!イスの空間が良かった!」ってお伝えしたのだよ。もちろん鍾乳洞自体もステキだがね。
では、いよいよ鍾乳洞に足を踏み入れよう。
個人所有の、畑の下の鍾乳洞
入口から130m部分まで、鍾乳洞の中に入っていくことができる。小規模ではあるけれども、幻想的な空間だ。
サトウキビ畑の地下に、こんな空間が眠っていたんだぜ。地上部分のあの雰囲気を知っているがゆえの、このギャップに胸がときめく。
足元には黒いシートが敷いてあり、歩くとじゃっかんパシャパシャ音が鳴る。
いたるところに泡盛の瓶が置いてある。年間を通じて温度が一定であるここに安置することにより、熟成が進むみたいだ。ワインとかと同じ理論かね。
ロールプレイングゲームに例えると、これらはまるでダンジョンの中の宝箱のようだ。ザックザクお宝をゲットできてしまうな。
中には願いごとを書いた札も泡盛の瓶や甕に設置されている。願い、叶うといいね。
ウワサによると年間2500円でボトルキープしてくれるそうなので、あなたも気になるなら預けてみると良いです。
鍾乳石はなかなかに立派だ。内部を探索できる距離は少ないが、こんなにも大きくて間近まで垂れ下がってくる鍾乳石を見られるのは貴重だぞ。鍾乳石、ボテボテした感じで重厚感がある。
一般的な観光鍾乳洞とは違い、「この岩の名前は〇〇…」のように粋なネーミングがされているわけではない。
ただし例外で1箇所だけ「観音像」とネーミングされた鍾乳石があったな。
これがその観音像だ。あなたにはどこが観音だかわかる?正直僕にはよくわからなかったが、こうやってネーミングの由来を考えてあれこれ楽しむのも鍾乳洞の醍醐味だよね。
さて、ここからは撮影した写真を淡々と順不同に並べて行こう。
この仲原鍾乳洞、完全には観光化されたスポットではなくって個人経営でやっているスタイルとのことだ。
個人の方のサトウキビ畑の地下に鍾乳洞があるとわかり、オーナーさん一家がこうして手造りで整備して僕ら一般人に公開してくれている、ありがたいスポットなのだ。
だからこそ、ウワサではオーナーさんたちは常時ここを営業しているわけではなく、本業の合間に実施しているケースもあるという。
なので確実にここにアプローチしたいのであれば、事前に電話をして予定を聞いたり予約しておくと良いそうだ。現に数年前以前のWeb情報には「予約必須」という表記も散見される。
今でこそWebでなんでも調べられるし、オーナーさんたちも広報に乗り出しているようだが、一昔前は口コミのみで知られる激レアスポットだったそうだ。
そんなスポットを探訪できたことに感謝をしよう。「雨だから…」というネガティブな理由で来てしまったが、かけがえのない思い出を得ることができたよ。
片道150mを往復し、僕の短い鍾乳洞体験は終わりを告げる。
洞窟を出ると再びポトスを眺め、そしてオーナーさんにお礼を言って鍾乳洞を後にした。僕が受付を出るのと入れ違いくらいに、他の観光客が到着していたよ。
このわずか2時間後、宮古島はウソのように快晴になる。
あの雨は、僕と仲原鍾乳洞を引き合わせてくれた奇跡の雨だったのかもしれないなぁ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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