日本最西端の与那国島には、"与那国馬"という在来種の馬が100頭ほどいて、体験乗馬ができる施設がある。
体験乗馬というと、スタッフさんが手綱を握りながら牧場内をグルリと一周散歩するだけ…とかを想像するかもしれないけど、違うんだ。1人で馬を操り、公道を走ったり山間部を山登りのようにザクザク進むのだ。馬に乗りながら。

正直乗馬には全然興味のない僕ではあったが、これはとても面白かった。
また与那国島に行ったらぜひ体験したいと思っているほどだ。
一昔前の体験談ではあるが、登場するスポット、スタッフさん、馬は2024年現在も現役だ。コースや料金など今は多少変化はあるかもしれないが、興奮は今もきっと変わりない…っていうかむしろレベルアップしているに違いない。
それではお聞きいただこうか。僕と与那国馬の「フジコ」とのドタバタ物語。
与那国馬の乗馬は楽しいらしい
宿で知り合った「OR君」と飲みながら、「与那国馬にでも乗ってみようか」という話をした。
宿のオーナーの「まなみさん」も「与那国に来たなら是非乗って行って。最初はあまり興味を持っていない人でも、乗ったらすごく面白がってリピーターになったりするんだよ。」って言っている。

うん、僕も小さいころは牧場とかでちょっと乗ったことがあるよ。係りの人に引いて
もらいながら100mくらい乗るヤツね。
アレは子供ながらに「なんだか物足りない…!!」と思っていた。
与那国馬の乗馬がそうではないのなら、大人でも楽しめるというのなら、記念に乗ってみようと思うのだ。

積極的に遊ばないと、与那国島での時間を持て余してしまうからね。なにせたっぷりと滞在日数を確保しているから。
そして何事もチャレンジだ。固定観点なんてつまらんもの、旅では捨ててしまえと思っている。
そう語り、OR君とアルコール60度の泡盛をグビグビ飲んだ。
…翌日の朝である。
天気は曇りときどき雨。そして強風。
「石垣島」からの通称"ゲロ船"が欠航になったとの情報がこの宿にも入ってきていたよ。普段でもゲロ船なのだから、強風の日は血ヘドまで吐くかもね。欠航正解。

食堂の脇の壁には、島のいろいろな施設や食事処のチラシが貼り付けてある。その中の与那国馬乗馬体験の施設に電話をしてみた。
本当なら昼前後で予約したかったんだけど「16:00からじゃないとちょっと厳しい」って言われたので、16:00にした。
今は2月。本州とかであれば17:00には薄暗くなるんだけど、日本の最西端である与那国島は19:00くらいまで明るいからなんとかなるのであろう。
昨夜知り合ったOR君と共に参加してみることにした。OR君とは15:30にこの宿で待ち合わせをすることにし、それぞれの観光をスタートさせた。
まずは構内学習やってみよう
15:20に宿に戻ると、OR君はすでに戻ってきていた。昨日に続いて今日も自転車で島を一周したと言っていた。マジか。どんだけ元気なのか。

歓談しているうちに、時刻は15:40。なんだか今にも雨の降りそうな天気。すげー不安だけど、じゃあ今から乗馬施設に行ってみる?
OR君と車に乗り込み、僕の運転で乗馬施設の人との待ち合わせポイントである「アヤミハビル館」を目指す。
アヤミハビル館の駐車場から乗馬施設に電話する。「今行きます」と言われたけど、待っているうちに結構雨が降ってきたよ。不安不安。
3分ほどで乗馬施設の軽トラが到着。乗馬トレーナーの"アニナグ"さんにご挨拶。そのまま軽トラに着いて車を走らせること数100mで乗馬施設に到着した。

ここが「与那国馬 風牧場」だ。"風"って書いて"う"って読むらしい。つまりは"うぼくじょう"だ。
幸い雨はさっきの一瞬だけで、今はほぼ止んでいる状態。良かった。ギリギリセーフ。

与那国馬とご対面。コミカルな牧場だ。乗馬施設だけども建物は無く、南国植物が屋根代わりになっている切り株のテーブルで受付用紙を記入した。こういう雰囲気、沖縄っぽくてとても好き。
与那国馬とは、日本在来種の与那国島だけに生息する小型の馬。カテゴリとしてはポニーに分類されるらしい。
古くから島の農耕や運搬に使われ、島の暮らしになくてはならない存在だったん
だって。一度は文明の発達で役目を失って激減し、60頭を切ったこともあったそうだ。しかし保護活動のおかげで今は110頭くらいまで回復してきているよ。天然記念物にもなっているよ。

まずは自分とペアになる馬とのご対面。僕の相棒はフジコっていう牝馬。ご挨拶として、まずは全身ブラッシングしてあげるのだ。
なんかゼンマイみたいな器具で体をブラッシングする。気持ちいいのか、これ。
このあと遠方まで馬と一緒にお出かけするコースも多数あるけど、この基本の行程は必ず実施しないとダメなんだって。挨拶してブラッシングして、構内をちゃんと歩けるようになってからの路上講習。運転免許と一緒だ。
それから引き馬の練習。
それぞれの手で手綱のどこを持つのか、どのように方向転換するのか、馬への声掛けの方法などを習った。うん、なんとかフジコも着いてきてくれているぞ。

次に鞍を設置。実際に馬の背中に乗ってみる。
小さめの馬なので片方の鐙(あぶみ)に足をかけた状態から地面から直接乗るんだけど、鐙に体重をかけると馬にも負担なので片方の足で地面を思いっきり蹴ってジャンプするように跨るそうなのだ。

この姿勢から跨るのだ。まずはアニナグさんがお手本を見せてくれた。
なるほど、チビで短足の僕にもできるだろうか…。ちょっとドキドキしたが無事に馬上に乗ることができ、フジコも無表情だったのでたぶん合格。
手綱はあらかじめ馬の首の下でクロスしておくんだそうで、これは与那国馬独特の乗り
方なんだって。
その状態で手綱を左右どちらかに引っ張ることで、それが首の下に伝わってハンドル替わりになるんだそうだ。
それと発進方法、停止方法とかをいろいろ教わる。発進は「ハイッ!」って言って、停止は「ドウッ!」。あとは加速や減速も。うん、なんとか頭では理解した。

そして実践。まずは牧場内の敷地でOR君とそれぞれの馬を引き馬で歩かせた。
発進・停止は何とかできるけど、方向転換が…。馬の意志と反発しててんやわんやですよ、あなた。
アニナグさんに「まだフジコにナメられてますね。」って言われた。おぉ!?オメー、フジコ、ナメとんのか、コルァ!
てゆーかフジコがオテンバ過ぎなの、コイツ。
急に腹減ったみたいで盛り草エリアに突っ込んで行って、アニナグさんに「仕事中に何食ってんだコラーッ!」ってスゲー怒られていた。
その後に完全スネちゃったみたいで、「ハイッ!」って言っても全然動かなくなったりするし。メンドくせーヤツだ…。
アニナグさんは「馬は人の感情がわかるから、威厳をもって接すれば動くはず」って
言ってた。OR君はそこそこうまく馬をコントロールしていた。僕はイマイチだ。
僕には威厳が不足している。うん、知ってる。

30分ほどでここまでの基礎講習が終了。
次は希望者は別コースで路上に出ることができる。行くよ、僕は行くよ。国家らが本番よ。
OR君は悩んだ挙句、ここまでで終了することを選択した。路上だと料金が1万を超えるからね、ちょっと痛いらしい。でもここでしかできない体験が待っているぜ、きっと。
OR君を見送った後、どこに行こうかとアニナグさんと話し合う。
海だったり山だったりいろんなコースがあるらしいが、この天気なので海や眺望のいい場所はあまり効果を発揮しないよね…。
そんなことを言うと、アニナグさんが「じゃあ人面岩コースにしましょう。ジャングルの中を馬で歩くコースですよ。」と提案してくれた。
おぉ、なんだそれ!楽しそうだ!
そんなわけで与那国のミステリースポット、「人面岩」に向かって出発なのだ!!
馬は車道も山道も構わず進む
公道に出た。ガチで公道だぞ、車道だぞ。しかもアニナグさんに手綱を持ってもらっているわけでもなく、1人で馬に乗っている。
いわぁワクワクだわこれ。初めて車で公道に出たときの感覚だわ。

ところで牧場からはフジコの旦那の寂しそうな鳴き声が響いててさ、フジコも気が気でないらしく、なかなか進まねーの。愛だね。まぁでもアニナグさんに発破かけられて、なんとかペースを取り戻した。
フジコはなかなか仕事に火がつくのが遅いタイプだそうですぜ。なにそれ僕と一緒。親近感。
アヤミハビル館の前を通り、山間部の水田の脇とか大きい牧場を経由して島の南部に向かう。もうすぐ水田に水を入れ始めるんだと、アニナグさんが教えてくれた。2月なのにもう!?早いなー。
「宇部良岳」の横を通る。公道に出て30分ほどで島の南端にある「新川鼻自然遊歩道」に入った。
来たっ!山道!すごい登り坂!ここ写真がなくって残念なんだけど、あなたの家の近所の山のハイキングコースとかイメージしておいてほしい。
登り坂だし階段もあるし、山の中で草木が生い茂っている。むしろジャングルだ。そこを馬に乗って突破していくのだ。楽しすぎる。
南国植物の葉が歩道にまではみ出ているからさ、体中にペチペチ当たる。それはまだいいけど木立もあるからね、馬の背中に乗りつつもテクニカルに回避しないとモロにヒットして落馬ですわ。
17:20ごろ、「新川鼻自然遊歩道展望台」に到着した。

ジャングルの中のときは頭上が木々で気にならなかったけど、開けたところでは雨が気になる。少しまた降り出したのだ。そこそこ寒い。
展望所はしばらく数前の台風の被害で、柵とか結構ボコボコになっている。ロープが張られているが、なかなかにスリリングな状態になってしまっていた。

東の彼方には昨日車道から眺めた与那国島のシンボルの1つ、「立神岩」が見えた。なるほどね。これでようやく自分がいる場所がなんとなく理解できた。
ここいらは島の最南端の「新川鼻」っていう岬の近く。岬の先端までは道が無いので立つことができないんだけどね。
そして、この岬の南側数100mのところの海底には有名な「海底遺跡」が沈んでいるのだよ。海底遺跡も与那国に来たからには見ておきたいスポットの1つだ。明日に行こうかな。

ここで我々も休憩だし、フジコも休憩だ。フジコ、早速草を食べ始めた。
アニナグさんが「こっちに秘密の絶景スポットがあるんだよ」と、柵の向こう側に行
く。いや、正確には柵は壊れちゃってるから、そのまま素通りなんだけど。
マジか、いいのか?怖くないのか??

断崖のギリギリまで行くと、真下は数10mの絶壁であった。
そして真下の世界の一面に深いジャングルが広がっている。

「いつもはもっとギリギリまで行ったりするんだけど、今日はここが限界。雨で濡れ
ていて滑りやすいので落ちないようにね。」と言われる。確かに落ちたら死ぬ。
ビビっているので写真もそりゃブレますってことです。

立神岩とは反対側の西側には綺麗なストライプに入った断崖の地層が見えている。なんてワイルドな断崖なのだろう。
沖縄の離島というと真っ白な砂浜の広がるなだらかな島を想像するかもしれないけど、与那国島は切り立ったテーブル状の島なんだよ。基本海岸線は全部ワイルド。

では、ボロッボロの展望台を出発。ここからは本格的なジャングルだ。
ジャングルの中の人面岩
さらに道は細くなるし、アップダウンもキツくなる。
登りは結構簡単だけど、下りってちょっと怖い。すごい下を見るような感じになるから
思いっきり重心を後ろに下げないといけないし。だけどもフジコは器用に坂だろうと階段だろうと上り下りしていく。

あぁここからはね、乗馬中のメインのカメラマンはアニナグさん。「乗りながらの撮影はシンドいエリアなので、自分が撮影しますよ。」って言ってくれたのでカメラを預けた。
アニナグさんは前を進みながらもときどき器用に振り返って僕を撮影してくれた。

どうやら今回の目的地である人面岩のすぐ近くまできたらしい。馬たちを遊歩道で待機させ、最後の10mほどは急な斜面を自分の足で登るそうだ。
辿り着いたのは、山の中なのにどこか開けたような雰囲気を持つ不思議な空間。2~3mほどの巨岩がその空間にいくつかゴロゴロしています。
「さぁ、どれが人面岩でしょうか?」とアニナグさんに聞かれ、辺りを見渡す。…あ、わかった。これだね?

古来からここには拝所があったとの伝承があった。
その場所で、何かの因果か2002年に発見されたこの奇岩。近年まで深い薮に覆われていたので、見つかってからまだ20年ほどの比較的新しいスポットなのだ。

高さは2m・幅と奥行きは3mほどあるという。天然にしてはあまりにいいポジションに舌となる岩があるねぇ。まさに人面だ。
人によっては明らかにパワーを感じたりするのだとアニナグさんが言っていた。
与那国島を舞台としたドラマ「Dr.コトー」では、ここは「志木那島神社」として登場したそうだよ。

さぁ出発だ。再び馬にまたがり、先へと進む。
新川鼻自然遊歩道は周遊コースになっているので、元来た道を戻らずに先へ先へと進むと最初の車道に戻れるんだって。
…と思ったら、いきなりフジコがストップしちゃった。
「ハイッ!」って言ってもビクともしねー。かといって用をたしているわけでもねー。どうした??
先を行っていたアニナグさんが「やっぱりな」って戻ってきた。
「ほら、ここは人面岩のちょうど真下くらいに当たるんだよ。そしてなぜかフジコは必
ずここに来ると怖がって歩かなくなっちゃうんだよ。これは動物的なカンなのかな?このこと、まなみさんに聞いてなかった?」
えぇーっ?そうなんだ。なんか僕まで怖くなるぜ。この「人面岩」直下の10数mのエリアにいったい何があるんだろうかね?
アニナグさんが自身の馬上から手綱を取ってフジコを歩かせようとしてくれたけど、それでもフジコが動かなかったので、一度降りて引き馬しながらナゾのエリアを突破した。そしたらフジコ、急に元気になった。

いやー、面白いね。乗馬、面白い。
これが一般的な牧場で、その場内での乗馬体験であれば、ここまでの興奮は無かっただろう。お出かけして目的地があって、これだけの冒険があるからこそ盛り上がるのかな。
あいにくの天気ではあるけれど、雨に濡れた密林、そして夕闇の迫ってくる中の薄暗いドキドキ感。これは快晴の日中では味わえない感覚だよね。
考え様によっては、この天気もラッキーなのだ。

ぶわっは!!フジコ、おまえわざと木々が生い茂っているところに行っただろ!おもくそ葉っぱにぶつかったわ!!
左右への方向転換の方法を習っているし僕も一応フジコに指示は送っているけど、たぶんあんまり僕の言うことを聞いていない。「うるせーな、私の歩きたいところに従え」か、「指示されなくてもわかってるわ」のどっちかだと思う。

薄暗い森の中をついに脱出。アスファルトの車道へと帰還した。ここから30分くらいで牧場だったかな。
するとアニナグさんが「じゃあ、ここからは駆け足で行きますか。」って提案してきた。そして駆け足の方法を教えてくれた。
2頭でダッシュ。ウゲェェ、すげー揺れるー!イテテ、イテ。僕のまろやかなお尻が大変なことに!

あぁ、でも楽しいなぁ。なんて楽しいのだろう。
雨上がりの夕暮れの道、2頭の馬が「パカッパカッ」と蹄の音を響かせている。それだけで最高なのだ。
写真はマスキングしちゃっているけど、上の写真の僕の表情は、今日一番のものだったよ。
お尻へのインパクトが大きいので何度か小休止しなららも、ダッシュで牧場へと帰還した。およそ2時間の冒険だった。充実した2時間だった。
OR君に送迎依頼の電話をし、それを待ちながらフジコのブラッシングをして乗馬体験プログラムは終了である。フジコ、ありがとね。
間もなくOR君が到着。アニナグさんとフジコとお別れだ。
ここは、夏場になると与那国馬と一緒に海に突入するコースもあるんだって。鞍を外した裸馬と一緒に波打ち際を走ったり、泳ぐ馬の尻尾をつかんで一緒に泳いだりもするらしい。
すごい楽しそうだ。またいつか機会があれば。
今日のお酒はきっとうまいであろう。
夕暮れの空の下、ハンドルを握るOR君にその後の出来事を話しながら、車はゆっくり集落に向かい走って行った…。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報