大阪で一番ディープかつデンジャーなスポットと言えば、西成区の「あいりん地区」かもしれない。
ここ数年で治安が良くなってきたそうだが、僕はドキドキしてしまう。
そんなあいりん地区のボロボロのホルモン屋さんの店先で、ホルモンを立ち食いしノンアルコールビール(ドライブ中なので…)を飲んだ。
ディープなエリアでディープな体験しているぞ僕、って思った。
こういうアンダーグランドな酒場を巡る方であれば、このお店の店名を一度は耳にしたことがあるだろう。
泣く子も黙る、「ホルモンやまき」である。
誰もが初回は躊躇するであろう。
どうやって位置取りし、どうやってオーダーし、どうやって食えばいいのか全くわからないであろう。
これは、そこにいきなり1人で飛び込んだ僕の物語だ。
ちょっとキケンなにおいの町
車を運転していたら、町のロケーションがちょっと変わった。
うまくは言えないけど、ニューヨークのダウンタウンというか、世紀末の世界観というか。昔のゲーム「ファイナルファイト」でゴロつき共が闊歩するメトロシティというか。
とりあえず、町が醸し出すワンパクなオーラに僕は早くも気付いたのだ。
コインパーキングがあったので、そこに愛車を停めた。
駐車場の端には冷蔵庫とタイヤと消火器が鎮座していて、なんでかなって思った。
有刺鉄線と崩れた家屋がなかなかワイルドだなって思った。
車にしっかり施錠をしたし、貴重品は忘れずに身に着けた。
それでも、かわいいこの子をここで残すことに少しだけ罪悪感を感じた。
空気が違うんだな。
あいりん地区は饐(す)えたにおいがする。
ところどころにゴミが落ちているし、道路がおうちの人の荷物だとかがグシャッとまとめて置いてあったりしている。
そういう大地と仲良しな先輩たちが、昭和時代みたいな自転車に乗ったりワンカップを片手に歩いていたりしている。
あぁ、ここが有名な「三角公園」か。
あいりん地区のセントラルパークだな。
20年近く前からWebですさまじい書かれ方をしているので、自分の目で見れたことが感慨深い。
ここで炊き出しだとか、大地先輩たちを対象としたレクレーションイベントが行われたりするのだな。
かつては日本一治安の悪い地区と言われていたあいりん地区。
日雇い労働者が多く住まう、いわゆる"ドヤ街"である。
だから人口の大半は大地先輩のようなおっちゃんだ。
三角公園にダンボールでマイホームを作ったり、その脇にロープを張って洗濯物を干したりしていた。
ちょっとお金がある人は、簡易宿泊所に泊まることも可能だ。
めっちゃめちゃ狭いけども1部屋1000円前後だったり、3・4万あればそこに1ヶ月宿泊できたりもする。
そんな中にローソンがあった。
買いたいものがあったので入った。
やはりちょっと特殊なにおいがし、客層も僕の知っているローソンとはちょっと違った。
店員さんはほとんどが東南アジア系の人で、ホスピタリティよりも動じない精神を大事にしている、屈強そうな人たちだった。
そんなあいりん地区であるが、実は10数年前くらいから治安が劇的に改善しているようだ。
橋本元府知事の功績だ。
僕が20年くらい前、最初にあいりん地区のことを知った際のイメージはこうだった。
- 観光客は絶対行くな。マジ行くな。行くならホームレスを装え。
- 仮に小奇麗なカッコで行くと身ぐるみはがされる。
- 写真撮影とかしようものなら命の保証はできない。
- 路上で違法なもの売っていたりケンカが耐えなかったり。
- 寒さや病気のために路上で死ぬ人も多いが、普通の光景なのでみんな慣れている。
- 治安も法律も無いに等しい。
僕はその時代のあいりん地区を知らないので真偽を確認する術がない。
だけども、そんな時代のそんなところに僕のようなインテリ眼鏡ボーイが1人で突撃したら、今の30倍はキケンだったかもしれない。
前述の通り今は治安が改善し、ヤンチャな感じの若者たちがものめずらしそうに歩いていたりしている。
外国人バックパッカーが安宿を求めてやってくることも多いそうだ。
まぁ「それであってもゴニョゴニョ…」ってなるかもけれども、それはもう個人の感性なので、この先はあなた自身で感じてほしい。
ホルモンやまきは大人気
列に並び、知らない人からよくわからない指示を受け
この駅は盛り土でちょっと標高が高いんだけど、その高架下にあたるところに僕が目指すホルモンやまきがある。
この先にホームがあり、そこに電車が来るだなんてちょっと想像できない。
あるいは、そんなところに来た電車に乗ったら強制労働施設に送還されそうだな、とか勝手に妄想してしまう。
ちょっと引きで撮影した1枚だ。
中央の階段が今池駅に登るためのもの。
そして右端の人だかりが、やまきの行列だ。
若い人が多いし女性の姿も見える。やっぱあいりん地区は変わったのだね。
ほんの2・3年前まで、やまきはガチな労働者のおっちゃんしかいなかったと聞いていたし。
今池駅のフェンスに立て掛けられた、香ばしい看板にズームする。
『立小便禁止』とふりがなつきで書かれているが、上からチラシ類をベタベタ貼られているし、看板自体が著しく劣化して何かがんだかわからない。
当初はフェンスにちゃんと取り付けられていたのだろうか…?
記載内容・看板の位置・劣化具合、そのすべてがあいりん地区を物語っていると思った。
行列に並ぶ前に、やまきの全貌をお見せしよう。
これがホルモンやまきだ。
店頭に大きな鉄板があり、その奥でおやじさんが黙々とホルモンを焼いている。
客は鉄板を囲んで酒を飲みながら肉を食うのだ。それだけ。
鉄板の手前に白いプレートがいくつか立っているが、コロナ対策のパーテーションのようだ。
はい、じゃあ並ぼう。
前に並んでいるのは10人くらいかな?
僕のすぐ左は今池駅への階段だ。
やまき側には「コインロッカー」と書かれたプレートがある。
あのプレートの裏側が今池駅のコインロッカーなのだ。
預けるのが少しだけ不安になるコインロッカーかもしれない。
あと、並んでいる人はみんな複数名だ。
僕だけ1人でやることなくって寂しい。
「僕、常連ですし。1人とか当たり前ですし。」みたいな風貌だったらいいのだが、どうみても雰囲気に飲まれそうなおとなしめの外見だしな。不利。
ちゃんとコロナ対策のアルコールも備え付けられている。
屋外の電光看板にくくり付けられている。
「消毒するには足りねーだろ。町中にアルコール撒けや。」とか言ってはいけないよ、あなた。
僕の後ろではビギナーの若者3人組が作戦会議をしながら並んでいた。
「YouTubeによると、こんな風に注文して、こうやって肉を受け取って…」とか、いろいろイメージトレーニングをしていた。
その3人、僕に比べるとやや道路にはみ出していたのだが、そしたら道行くワンパクなおじいさんに声を掛けられていた。
「おうおうキミたちー。そんなにはみでちゃいかんよー。ここみんな通行してるんだから。自転車も来るんだから。すぐケンカになるぞー。ケンカ好きか、君ら?おぉ?好きか??」って言われていた。
「好きじゃないです…」という声が後ろから聞こえてきて安心した。
普段を知らないのでわからないが、僕が見た限りやまきのおやじさんはほとんど言葉を発しない。
行列に並んでいる状態から、どのタイミングで鉄板の前に行けばいいのか、僕はオドオドしながら並んでいた。
しかし、途中でヘンテコなおじいさんがやってきた。
正体は不明だ。
路地の向こうからテクテク歩いてくると、鉄板の向こう側のおやじさんと一言二言話し、「おーい、ホルモン終わったってよ!」と行列に並ぶ僕らに声を掛けてきた。
マジか。少し残念だ。
やまきのメインメニューはホルモンとキモ。これで残りはキモのみとなった。
まぁいっか。
その後、おじいさんは行列を近くで見守りながら「次の2人、鉄板の前に来なー」みたいに声を掛けている。
誰だか知らないが、これはありがたい。
行列に並ぶこと10分ちょい、「兄さんおいでー。1つ空いたよ。」と言われた。
鉄板の前で肉を食い、そしてノンアルビールを飲む
鉄板を取り囲むロケーションのイメージをご紹介しよう。
こんな感じだ。
コロナ前はお客さんが鉄板をギュウギュウに取り囲み、それが2重3重にもなっていたようだ。
しかし今は人数が決められ、そして待っている人は列を作っている。
わかりやすいシステムになったようだ。
鉄板の前に来ると僕は「えっと、キモ2つ…」と言った。
おやじさんは僕の方を全然見ずに「今、前の注文焼いているからさ、待っとれ」みたいに言ってきた。
実はこれ、作戦通りであった。
おやじさんは寡黙だ。
「オーダーしてもリアクションがなく、でも実はオーダー通っている」みたいなのがデフォルトパターンらしい。
だから「おやじさんから『何にしますか?』って聞かれてからオーダーしよう」みたいに思っていると、一生オーダーできないのではないかと思ったのだ。
だから前のめりでオーダーした。
「待ってろ」というリアクションが得られたのも嬉しかった。
「はーい、じゃあついでにノンアルビールも」と、僕はちゃっかりオーダーした。
キモとはレバーのことだ。
デカいビニール袋から、ドチャドチャっと大量のレバーが鉄板に投下される。
「臓腑…」って心の中でつぶやいた。
当たり前だが、なかなかにフレッシュでリアリティのある見た目だぞ。
それを鉄板の上でしばしこねくり回す。
時間にして1分弱だろうか?
レバーの表面はかろうじて茶色くなってきた。
そしたらそれをヘラで3つほどに切り分け、ほんの数10秒火を通して完成。
早いな。
ちゃんと火は通っていなくっていいんだっけ?
よくわからないけど、信じるよ?信じていいんだな??
焼き終わったレバーは、写真左に映っているバットの中のカオスな汁をかけて提供される。
これが中毒性があると評判のやまきのタレだ。
よし、1人でカンパイだ。
肉は写真のようにプラケースに入れて提供される。
串が2本ささっているのは、「キモ2つ」という意味だ。最後の清算のときにこれでカウントする。
ケースの中にタレも入れてくれている。
これはコロナ仕様だ。
コロナ前は、お客さんは鉄板の上に出来上がっている肉を勝手に取り、そして勝手にバットの中のタレに漬けて食べたという。
そして最後は串の本数でお会計が決まるというイメージだ。
これまた一見さんにはハードルの高いシステムだったが、コロナ仕様となってちょっと難易度が下がったよね。
コロナ前まではノンアルコールも無かったらしい。
ドライブで訪れる僕、ドリンクオーダーしないのはちょっと引け目を感じるかなって思っていたけど、ノンアルビールが登場して良かった。お茶もあったぞ。
そして、僕以外は複数名でそれなりに談笑しているが、コロナ対策のパーテーションのおかげで黙食してても普通でよかった。
数年前までは鉄板を囲んで知らない人同士もワイワイしていたらしい。
今回僕の前後にいた人はみんなグループだったから、なかなか会話に入り込むのは困難。コロナでなければちょっと疎外感を受けるところだったかもな。
レバーは濃厚でうまい。臭みはあまりない。
タレも甘辛スパイシーで、みんなが絶賛する理由が分かった。
これ、また機会あったら絶対にホルモンも食べてみたいわ。
さらにコロナが落ち着いて世界が平和になったら、かつてのように鉄板をワイワイ囲んで知らない人と祝杯をあげたいな。
キモもホルモンも1つ80円。
つまり僕はキモ2つで160円。
ノンアルコールビールを入れてもお会計410円だった。安。
みんなパッと入ってパッと食べて、立ち去る。
大体滞在時間はみんな15分ほどだそうで、僕もそうだった。
いいね、粋な立ち飲みじゃないか。
アルコールは全く摂取していないが、心がなんだかフワッと軽くなった感覚で、僕はお店を後にした。
夕暮れの近付くあいりん地区が、優しく照らされているように見えた。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: ホルモンやまき
- 住所: 大阪府大阪市西成区萩之茶屋2-2-7
- 料金: ホルモン¥80 キモ¥80 他
- 駐車場: なし。コインパーキング使用のこと
- 時間: 14:00~21:00(雨の日はお休み)