…あなたは最近、恋をしていますか?
えっ、僕!?
おいおいおい、僕から恋と愛を取ったら何も残らないだろうがよ、何言ってるんだオメェ。
…さて、茶番は置いておいて、今日は「恋山形駅」をご紹介する。
今回の記事の写真は一面ピンクだから、目への刺激が気になる方はお手元にサングラスをご用意いただきたい。
また、紙への印刷をご予定であれば、赤インクの在庫が充分かをあらかじめご確認いただだきたい。
準備は整ったか?
では行こう。
♡ 日本一メルヘンな恋山形駅へ ♡
恋は突然。恋山形駅も突然。
鳥取県南部の山間部。
ゆるい峠の連続する、緑一色の風景。
とりおり出てくる田園集落。
すっごいローカルな景観なのだ。
信号機もない・店もない・車も人もない…。
そんな中に、山形という集落がある。
昭和の気配がまだ漂う、ゆっくりゆっくりと時が流れているような、静かな集落であった。
お年寄りが畑の手入れをしている姿を見かけた。
窓を開けていると聞こえる、ウグイスの鳴き声が心地よかった。
恋はいつだって突然だ。
地元の方が整えているであろう畑、その背後に墓場。
そんなの知ったことか。
バチコーンっていう勢いで、ハート型の看板である。
(゚∀゚)キタコレ!!
すっごいブッ込んできたよね。
例えると、和食の料理人が腕を振るって作った繊細なお吸い物に、「味が足りない」と言いながらトマト缶の中身をドバドバ注ぐような暴挙。
『うさぎおいし かの山~♪』とか歌いたい景色なのに、パンクロックが流れて来ちゃう違和感。
てゆーかこの看板、いったいいくつのハートマークを使っているのだ。
(40まで数えてもうどうでもよくなった)
そんな恋山形駅まであと100mだという。
心の準備なら、全然できていない。
坂道をゆっくり登る。
右手には田畑が広がっている。
ホウキを持ったおじいさんとすれちがった。
まだ信じられないのだ。この数10m先に伝説の恋山形駅があるだなんて。
あなただって、校舎裏に突然呼び出されたところで、ラブレターをもらえるだなんてすぐには信じられないでしょ?
ラブレターを渡される瞬間までは、まだ世界は正常であり均衡を保っているのだ。
知らんけど。
何言っているのか自分でわかんなくなってきたけど。
それだけ動揺しているってことなんだけど。
なんか道路の一部がピンク色のペイントになった。
恋ロードっていう名前の道だそうだ。
ブッ … !!
あなたの恋が叶いますように。
ヤベー!これヤベー展開だぞ!!軽くヤベェ!!
ちょっとビックリしてボキャブラリーも大体崩壊した。
レッドカーペットならぬピンクロードを車で登っていたら、左手にはピンク色の芝桜、その向こうにはピンク色の駅舎。
ちょうど今は芝桜のシーズンだったな、ピンクマシマシだ。
とりあえず僕はハンドルを握りながら「うわーうわー…」って目を丸くすることしかできない。
駅舎の対面に普通に愛車を駐車した。
そしたらアレだ。背後がアレだ。何かが何かを射抜いている。
僕、こんなところに1人でやってきて大丈夫だった?
致死量を超えるピンクを摂取することになりそうなのだが??
車から降りた。
遠目から見ても駅が一面ピンクである。あらゆるものがピンクの予感がしている。
人工物でピンクでないものは踏切の遮断機くらいかもしれない。
ものすごい快晴で青空なので、ピンクが一層映えるよね。
胸がキュンキュンしてきたね、これ。
足元のプランターもいちいちかわいいぞ。
とにかく余白があるならハートを描け。ここで学んだ教訓だ。
武骨なフェンスだってピンク色にペイントすれば、それだけで心躍るアイテムとなる。
恋ポストだ。
恋の手紙を届けてくれるらしい。
そういや手紙書いてないな、最近。こういう時代こそ恋の手紙もいいかもしれないぞ。
いや、僕は書かないけどな。
ポストの上に掲げられた立体のオブジェがいいセンスしているなって思った。
高度な技術が必要だ、きっと。
集められた手紙は、地元山形郵便局でハート型の風景印が押されるぞ。
とにかくハートなのだ。ハート以外の記号を知らぬ。
恋が叶う鐘が設置された、社もあるぞ。
駅構内の自販機でハート型の絵馬も売っているので、それをここに収めることもできる。
中央の大きな「恋」と書かれたハートのオブジェ。
真ん中にハート型の窪みがあるのだ。
ここに絵馬をはめこんで記念撮影もできる。
恋づくしだな。
あなたもだんだん恋愛成就しそうな気持ちになってきただろう。
ここまでお膳立てされたのであれば、もうカップリングしちゃう気分だ。
…ところで僕は1人だけどな。
周辺にはだーれもいない。さっきホウキを持ったおじいさんとすれ違っただけだ。
ピンクの駅舎で電車を待とう
もったいぶってしまったが、駅舎本体をご紹介しよう。
改めて、ものすごい配色だ。目がチカチカする。
無人駅なので、駅員さんもないし普通にズカズカとホームまで入っていくことができる。
行こう。ホームに行こう。
駅名板もハート型だ。なぜかこれだけはピンク色ではなかったが。
しかし業務用の電話はピンク色だ。
業務用電話にまで浸食するとは、このピンクかなりの攻めの姿勢だ。
たぶんこの駅をデザインするときの会議で「どこまでピンクする?」・「業務用電話はさすがにピンクにする必要ないのでは?」・「いや、食らうなら皿までだ」・「ここは夢と魔法の世界よ」みたいな激論が飛び交ったに違いない。
無人駅で幸いだったな。
駅員がもしいたなら、きっと制服もピンクに染められていたことだろう。
こっち側のホームから、線路を挟んだあっち側のホームを見る。
上の写真ではわかりづらいかもしれないが、ホームの監視カメラのカバー・駅の背後の土地の柵・電線を繋いでいるであろうポールも全てピンクだ。
ゴミ箱は当然ピンクだ。
ここ山形の集落は高齢者が多そうだ。
おじいさんとおばあさんが並んであのピンクのベンチに腰掛けていたら、きっとこっちまで笑顔になってしまうだろう。素敵だ。
踏切を渡って対岸のホームまでやってきた。
視界が大体ピンクだ。ヤベェ。ピンクの壁の圧力、すげぇ。酔いそう。
駅舎はないが、敷地内に簡素な待合室みたいなものならある。
たぶん最近できたものだと思う。
もう説明する必要もないと思うが、ハートもモリモリあしらわれた自動販売機と、ハート型のテーブルだ。イスだけはちょっと武骨だ。
あと、トイレもある。
これも直近で設置された物らしい。
もともとこの駅にはトイレは無かったのだ。
バイオトイレだった。
遮断機が下り、電車の接近が近いことを知る。
慌てて僕は死角に隠れた。
だってさ、このファンシーな駅に僕のような冴えないメガネ男が佇んでいたら、車内の人から白昼夢だと思われるもんね。
もし電車が停車するなら、人が下りて来ない前に立ち去ろうと思ったのだが、電車はゆっくりと駅を通過して行った。
恐ろしい。
ここに1人でいると他人の目が恐ろしい。
なぜ恋はここで生まれた?
恋山形駅。
なんで”恋”という名前がつくのか。
そしてなんでこんなにピンクになっちゃったのか。
文中でチラチラと触れてきた通り、ここは山形という集落である。
”恋”なんて単語に縁もゆかりもない。
じゃあなぜ恋というフレーズがついたのかと言うと、「来い」を文字ったからなのだ。
この駅の歴史はわりと浅く、駅ができたのは1994年である。
どんな駅名にしようかって考え、当初は"因幡山形駅"が候補であった。
だけども、もうちょっとインパクトが欲しいと考え、「もっと人が来てくれるように」という願いを込めて「来い」、それを「恋」と表現したのだ。
しかし1日の利用客数は2018年で5人とのことだ。
ちょっと控えめな数だね…。
看板に書かれている通り、日本には「恋」と名前の付く駅は4つだ。
2013年、これら4つの駅が結託して「恋駅プロジェクト」っていうのを開催した。
「恋同盟としてなんかやろうぜ!」ってなり、そのころはなんの変哲もなかったこの恋山形駅が、変なスイッチ入っちゃって現在のようにピンク祭りにしちゃったのだ。
同じ時期に地元の人たちが植えた芝桜も数年してしっかりと根付き、春にはこのようにピンク色の花を咲かせている。
完全にネタに振り切った駅だが、嫌いじゃない。
だからこそ、こうして来たわけだしな。
すごく小さな駅だし、駅の周囲に何かあるわけではない。
停車本数もすごく少ない。
だけども駅自体に特徴があるため、停車時にはちょっと長めに5分ほど止まってくれるそうだし、土日などは25分止まる電車もあるらしい。
なんて親切なのだろう。
駅前には自撮りのためのカメラスタンドがあった。
1人だけども、とりあえず記念撮影をした。
ここで愛を育むカップルがたくさん生まれればよい。
僕はそんなカップルを見て「爆発しろ」と念じるかもしれないが、負けるな。
誰にも会わなくてよかった。
特にキラキラしたカップルに出会わなくってよかった。
安堵しながら、僕は再び車に乗り込む。
再び現れた田園風景が、僕の目を癒してくれた。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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