牡蠣小屋。
文字通り牡蠣を食べられる小屋…という営業形態を示す言葉である。
ただ、食事処に"小屋"という言葉を使うジャンルが牡蠣以外にあるだろうか?
ちょっと思い浮かばない。
そして僕はこの"小屋"という、素朴でワイルドな単語に言い知れない魅力を感じてしまうのだ。
「牡蠣をおいしく食べられるんなら、他の要素は全然いらないよな。お店が小屋であっても構わないよな。」という、無駄を一切排除した職人ソウルを感じる。
だからこそ、牡蠣小屋に行く僕らはひたすら牡蠣のみにストイックなのだ。
今回は鳥羽の牡蠣小屋について書く。
旬の冬は終わろうとしているが、今回ご紹介する牡蠣小屋の営業は3月まで続く。
今が狙い目かもしれないぞ!!
雪降る日に思いを馳せて
日本5周目のときのことだ。
学生時代の先輩の「アヤさん」と数日間合流していた。
翌日と翌々日は伊勢に行こうと話していた。
その目的の1つが牡蠣の食べ放題だ。
いや、牡蠣の件は直前に思いついたんだけどな。昨日とか。
憧れの牡蠣小屋での食べ放題にチャレンジだ。
僕は早速、鳥羽市にある浦村という牡蠣の一大産地の牡蠣小屋に、予約の電話をすることとした。
…「名古屋港水族館」から。
うん、前日は名古屋にいたのだ。
イワシトルネードとかシャチの巨大水槽とか見ながら牡蠣小屋の検索をしていた。
海繋がりで臨場感だけはある。
さて、安くておいしい牡蠣の食べ放題。
普通だったら前日に予約しようとしてももう予約一杯で無理に決まっている。
しかし僕には勝機があった。
日本全国、ドッシャドシャに雪が降っていたのだ。
東京なんか30cm近い積雪となり、交通網が乱れるわ停電するわの、日本中大パニックの日であった。
僕がこの日にいた名古屋の町も、すっかり銀世界であった。
だからこそ、直前キャンセルが出るに違いない。
ノーマルタイヤで現地に向かおうとしている人がキャンセルするに違いないと。
だって、ここ名古屋港水族館も、怖いくらいにガラッガラなのだから。
しかし甘かった。
牡蠣小屋のリストを片っ端から電話し、でもことごとく「予約に空きはありません」と断られて、くじけそうになった。
「もうダメだ…。これを最後の1件にしようかな…。」
そう思って電話したお店に、空きがあった。
捨てる神あれば拾う神あり!!…って思った。もちろんすぐに予約だ。
お店の人は「この雪の中ちゃんと到着できそうですか?」と言う。
だけども心はもう鳥羽だったので、「大丈夫です!きっと行きます!」って深くは考えず、凛として答えたのだ。
こんなカッコいい僕にアヤさんも惚れてしまうのではないかと思ったが、そんなことは全然なかった。
翌日。
名古屋高速は雪で全面通行止めだわ、周辺道路大混雑しているわ、三重県に入ったら松阪ICから先はまた雪で通行止めで一般道に降ろされるわ。
早い話が、予定がずいぶん狂ったということだ。
どうした。昨日威勢よく見えを切っておいてなんだ、この体たらくは。
予約しておいた時間を20分ほど過ぎてしまう見込みなのだ。
まぁでもなんとかなる。
お店には遅刻する旨を連絡済みだからな。
アヤさんが。
念願の牡蠣小屋訪問
「スギムラ水産」。
ご紹介するのがかなり遅くなってしまったが、これが今回目指すお店の名前だ。
浦村牡蠣といえば、東海地方の牡蠣として有名。
その浦村の集落の奥深くにそのお店はある。
「パールロード」という、車好きな人やライダーさん、そして僕も大好きな快走路の途中のゾーンにある。
このパールロードの「麻生の浦大橋」近辺から浦村牡蠣の牡蠣小屋が随所に出てくる。
その中でも僕らが目指すスギムラ水産はかなり奥側で、ほとんどの店が事前に看板等を出して存在をアピールしているのに、スギムラ水産は何の存在も感じさせなくって…。
不安になりつつ擦れ違いも困難なような漁村の奥へ奥へと走っていると、ようやくお店を発見できた。
Googleマップのストリートビューから、お店の直前の風景を引用させていただく。
いいね!本場に辿り着いたぞ、って感じだね!
ワクワクが止まらない。
愛車をズザザー…って感じで砂利の駐車場に停め、すぐに牡蠣小屋に飛び込む。
牡蠣小屋はどこも時間制限ありで、ランチタイムは前半の部・後半の部の2部構成になっているところが多い。
ここはその後半の部が13:00~14:30。
※訪問当時の情報です。
結局20分遅れてしまい、今の時刻は13:20だ。
まぁ1時間も食べればぜったに満足するだろうが、少しでも早くスタンバイしたいのが牡蠣好きの性(さが)だよね。
これが牡蠣小屋内部だ。
実際は僕らの他に2・3組の方がいたが、彼らが帰ったあとに撮影したものだ。
簡素な手造り風の小屋だが、とても新しそうで綺麗だ。
後から知った話だが、このお店は以前から牡蠣を売っていたんだけど、こうやってイートインできるような店舗にしたのは僕らの訪問したシーズンが初だったのだ。
テーブルには生牡蠣がモリッと置かれた。
これを横の炭火で自分で焼いて食べるのだ。
最初に焼き方とか焼き上がりの見極め方、そして殻の開け方を教えてもらった。
料金は牡蠣のみ食べ放題であれば2000円。
上記にプラスして牡蠣めし・牡蠣鍋・牡蠣フライ・牡蠣の佃煮をつけると2500円。
僕の訪問時には、このような2つの選択肢があった。
いや、オプションを付けてしまうと、もう焼き牡蠣食べ放題どころじゃなくなるんじゃない?
ご飯に鍋にフライだぜ?オプションだけで満腹必至だ。
でも、焼き牡蠣だけだと飽きるかもね。
1つは牡蠣オンリーの2000円コース、もう1つはオプション込みの2500円コースでオーダーした。
…しかし安いな。いくら食べても2000円とか、マジ安い。神か。
牡蠣食べ放題チャレンジ
さぁ、僕らの時間は1時間ちょい。
遅刻した分少し少なくなってしまったが、せいいっぱいがんばろう。
…って思ったら、お店の方が「ランチ後半の部で次の人いないし、制限時間は目安程度の考えていいですよ。延びてもいいから心行くまでお腹いっぱい食べてね。」って言ってくれた。
なるほど、やはり神か。
浦村産の牡蠣は、小ぶりではあるが身がしまっていて、そして臭みも少なく味は濃い…という特徴があるそうだ。
楽しみだぜ。
実は僕、牡蠣はちょっと見た目が好きではなくって子供のころは食べたことすら無かったのだ。
日本1周目で宮城県の塩釜という町に行ったとき、同行の先輩が生牡蠣をおごってくれたので恐る恐る食べてみて目覚めたのだ。
食わず嫌いをしていた分、ここで取り戻す精神だ!
説明しよう。
焼くときには上にアルミホイルをかけておくのだ。
なぜアルミホイルをかけるのかというと、中の汁が沸騰すると「バフンッ!!」ってハジけて、側にいるとその爆発に巻き込まれるからだ。
焼けてくると殻がいい感じに乾燥してくるとかなんとか、まぁよくわらかないのでそこは野生の勘で行く。
焼けたと思ったら、ヘラを隙間に射し込んでグイッと開ける。
よし、いい感じに焼けていそうだ。
そしてウワサ通り、殻に対して身が大きいぞ。
これをチュルッと食べる。
うまーい!!磯の香りーー!!
牡蠣を食うというのは、「海を具現化させて食う」のと同義ではないだろうか。
僕は今、母なる海を食している。
ガンガン焼く。
網に並べられるだけ並べる。
そうなるとどれが焼き始めたばかりで、どれが焼き上がり間近なのかわからなくなる。
アヤさんとモメる。
なんか牡蠣の殻を開いてみたら、コゲコゲで水分蒸発して小さくなっちゃったヤツとか出てくる。
大惨事だが、まぁそれはそれでうまい。燻製みたいだ。
トレーに最初盛られていたものが全部無くなったら、またお替り。
すぐに次のトレーいっぱいに牡蠣が再登場する。
よーし、やるか…!
あ…、でも…、ちょっと食べ疲れてきた…。
淡々と機械的に食べるマシーンになって来ちゃってるぞ、僕。
このままだと飽きてしまう。
牡蠣のありがたみを感じられなくなってしまう。
横の食べ慣れていると思われるファミリーを観察すると、いろんな調味料やドリンク・酒なんかを持参しているのね。
なるほど、これは賢い。
しかし僕らはそういうものを持参していない。
卓上の醤油とお茶だけだ。
では、オプションメニューをここで挟もう。
牡蠣フライ。サックサクだけども中身はジューシー。
旨味が凝縮されている。
だけども油の分、腹には溜まる。
牡蠣鍋だ。
こんなに牡蠣を入れちゃってもいいの?…ってくらいに牡蠣で埋め尽くされている。
なんて罪深い一品だよ。
そして牡蠣めしは、ダシがご飯に染みてて泣きそうにうまい。
だけどもしばらくすると、どうしょもなくぜいたくな悩みが発生してしまうのだ。
違うものを食べたくなるのだ。
牡蠣がモリモリ入っていて、逃げ場がない。
でも逃げることなんて不可能なのだ。牡蠣縛りルールなのだ。
そういや以前、佐渡ヶ島で旅友の「ニコル君」とカニ食べ放題にチャレンジしたときも同じような気持ちになったな。
カニ3杯食べた時点で早々に飽きが来てしまい、店員さんに「もうリタイアなの?」とか言われたな。
まぁでも美味しく食べれる範囲で辞めておくのが吉なのだ。
…とはいえ、飽きる飽きないではなく、食事としてのボリュームも相当なレベルに達しているとは思うぜ。
牡蠣のトレーは3つ目に突入した。
これくらいは完食させて終わりにしたい。
おさらいだが、トレーというのは上のものを指す。
牡蠣が20個弱乗るようなサイズだ。
2人でトレー3つ分をたいらげた。
ちょっと「ウップ」みたいな感じになった。
最後の数個はアヤさんと「どうぞどうぞ」と、美しい譲り合いの応酬。
だけどもなんとか2人で協力して食べきった。
激戦の果てに
やりとげたー!
10年分は食べた!充分に元は取ってやった気分だ!
しかし、もう当分牡蠣は見たくないー!!
トレー3枚分の牡蠣。
この牡蠣の殻は足元のバケツに捨てていくのだが、2人合わせてこの殻はバケツ1杯半分くらいになった。
メッチャ食ったな。
満足感。してやったり。
15:00くらいまで、本来のランチタイムの30分後くらいまで食べ続けていたらしい。
もう冬の太陽は西に傾きつつあった。
得意気にお会計をしようとすると、お店の方が「アラアラアラ、もったいない…」みたいなことを言い出す。
「は?何を言っているんだ?」って、発言の意図が分からなかった。
すると「アナタたち、随分少食なのね。これじゃもったいないわよ。普通の人は1人でバケツ1杯は食べるのよー。」とのことだ。
なにー!!
みんなそんな食べるの!?
これにはさすがにビックリした。
僕ら気持ち悪くなるくらいに食べたのに。
どうやら、すごい人はバケツ5杯分は入りそうな巨大な発泡スチロールのボックスが、牡蠣の殻でいっぱいになるんだってさ。
いや、ムリ…。体内が全部牡蠣で浸食されるわ。
もうこれ以上食べれないから、僕らは結果これで大満足なんだ。
無理せずに美味しく食べれる量が一番幸せだし、2000円でこれだけ食べれたからマジで幸せ。
実際、12月と比べると僕らの訪問した2月っていうのは、牡蠣の身が3倍ほどにまで成長しているらしい。
プリプリの牡蠣、充分にいただきました。ありがとう。
最後の客となった僕らはお店の方にお礼を言い、車に乗り込む。
牡蠣もメニューも人柄も太っ腹。
すばらしいな、浦村は。
では、このあと快晴のパールロードを疾走するか!
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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