昭和時代のデパートの最上階には、食堂があったらしい。
そこは連日家族連れで賑わっていたらしい。
ナポリタン・クリームソーダ・ハンバーグ・カレー・ラーメン・ソフトクリーム…。
なんでもござれだ。
そんな熱気を帯びていた昭和の時代は遠く過ぎ去り、想い出はセピア色に…
いや、セピア色になんかならねぇよ!
まだ早ぇよ!!
令和の現代においてもドカンドカン盛り上がっているデパート食堂がある。
ソフトクリームだって、親の仇(かたき)のように渦高く盛っている。
「マルカンビル大食堂」。
ぜひ実際に発音してみてほしい。
お口が楽しくなるフレーズだ、マルカンビル大食堂。
さぁ、メシ食いに行こーぜ、デパート最上階へ!!
昭和レトロなデパートで
今回は、マルカンビルに2回訪問した記録をミックスしてお届けしよう。
場所は花巻!
目指すは「マルカン百貨店」!!
これだ!
武骨でノッペリしていてカクカクしていて、なんのオシャレ感もない!
それが最高な気がする!
見よ。最上階だけ窓があるであろう。
それが僕が"楽園(エデン)"と呼ぶマルカンビル大食堂だ。
ウホホ、もうヨダレ止まらんね。
このあたりのデザインも秀逸だ。
カッコいいとカッコ悪いが絶妙に交じり合った世界。
それを"昭和"と呼んでもいいのかもしれないし、ダメなのかもしれない。
ただね、西の山脈に沈んでいこうとする太陽に照らされたマルカンビルは、そりゃもう美しかったよ。
憧れてきたこの食堂に、日本6周目にして僕はようやく来れたのだ。
ちなみにビルの裏側に駐車場があるのだがね。
そのコンクリートに直で打ち付けられている、お店のロゴを見てほしい。
昭和時代じゃないと生産できないような、かわいらしいロゴだ。
これを見れただけでも僕は「勝った!」って内心ガッツポーズを決めたよね。
さてさて、マルカン百貨店についていろいろ語りたいところではあるが、あなたももう空腹だと思うので、まずは最上階に行っちゃおう。
まずは腹ごしらえしちゃおう。
1階のエレベーター前にはマルカンビル大食堂の顔出しパネルがある。
もちろん、これを使って撮影もした。
左、スタッフさんはガチでこの格好をしているぞ。昭和レトロだ。
そして右、巨大なソフトクリームが割り箸を持っている。これはネタバレになってしまうから忘れてくれ。
エレベーター内部だ。
ここから6階に上がる。
ボタンをよく見ると7階があるし、なんだったらさらにその上にもう1つボタンが隠れているように見える。
しかしさっきの外観の写真の通り、建物の面積の大部分にとっての最上階は6階だ。
だからこの記事では"最上階"ってことにしておいてほしい。
エレベーターのドアが開く…。
ようこそ、食のワンダーランドへ。
マルカンビル大食堂、入店!!
ショーウィンドウ編
エレベーターを降りるとすぐに、マルカンビル大食堂のエントランスだ。
その左右には神々しいショーウィンドウが広がるのだ。
ちょっと角度的にショーウィンドウ2つを同じフレームに入れられなかった。
だが上の写真、ショーウィンドウに向かい合うように右手前(アルコール消毒液の奥)にもショーウィンドウがある。
これがすごくワクワクするのだよ。
なんでもある、と言ってもいいかもしれない。
少なくとも昭和の時代にここに来た家族連れは、とっても楽しかったのだろうなぁと想像する。
だってさ、これを見ている僕自身、頬が緩むのを抑えるのが大変なくらいだ。
そんなにも胸躍る。
ショーウィンドウにキチッと配列された食品ディスプレイの数々。
まさにこれそのものがメニュー表なのだ。
この大食堂では着席してからメニューを開いて選んだり…という工程は基本的にはない。
まずはここで自分が食べたいものをチョイスする。
ときどき3Dのディスプレイの中に2Dの写真があったりして、脳がバグるのもご愛敬だ。
さぁ、あなたは食べたいもの決まったか?
僕は初回入店のときには閉店間際だったのであまり迷う時間もなく、本能に任せてカツカレーにしたのだ。
2回目の入店の際には、向かい合ったショーウィンドウを交互に見ながらウロウロした。
だけどもショーウィンドウの真ん中ってお店に出入りする通路だから、往来のジャマになってしまってアタフタした。
もちろん、そういうのもいい思い出だ。
デザートも圧巻の品ぞろえ。
普段はデザートなんぞ食べない僕も、さすがにここでは目を凝らす。
後述するが、名物はソフトクリームだ。
ここでイメージトレーニングだ。
あと、お子様メニューも充実だ。
昭和時代は家族みんなでデパートに来たのだ。そりゃ子供の喜ぶメニューは必須だ。
では、メニューが決まったら写真中央(ショーウィンドウの奥)にある食券売り場にGOだ。
そこでスタッフさんにメニューを告げて食券を購入するのだ。
そしていよいよ食堂客席ゾーンに突撃!そして着席!
カツカレー編
まずはこの食堂のスケールを感じ取ってほしい。
なので人の少ない時間に入店したときの記録を最初にご紹介する。
広ーい。
これでフレームに収まっているのは3分の1くらいだろうか?
学生時代の学食を彷彿とさせるような広大な空間だ。580席あるらしい。
これが休日の昼間などは結構ギュウギュウに人が入り、すごく賑わうのだ。
奥の方には開閉可能なシャッターもある。
チラリと見る限りでは常時使用されるような空間ではなさそうな気配だったが、繁忙期やイベント時などはさらに拡張できるのかもしれない。
席は自由だ。
ほとんど誰もいなかったので、選びたい放題だ。
窓の外に絶景に向き合えるような席に座った。
すぐにスタッフさんが来て、僕の購入した食券の半券を持って行った。
窓の外、地方都市ならではの山々の絶景よ。
ここより高い建物なんてそうそうないから視界を遮るものもない。
そして山の上には無数のUFO…。
いやこれ違うな、窓に映った店内の照明だ。
間もなくカツカレーが出てきた。
ラストオーダー4分前だったのでロクに考えずにオーダーしてしまったのだが、一目見て僕の判断に間違いはなかったと確信した。
かなりのボリューム。カツも標高の高いところに盛られている。
そんなありがたきカツカレーを、こんな夕景を見ながら1人でゆっくり食べることができるのだ。
これを贅沢と呼ばずして、何が贅沢か。
揚げたてカツはもちろんサクサクであった。
大食堂にサクサク音が響いてしまうことを心配するくらいに。
箸立てがレトロだ。
うまく説明できないが、頭頂部のポッチを上に引き上げるのだ。
そうすると中の割り箸が花開くように飛び出るのだ。
Web検索で「昭和_割り箸立て」とかで入れると出てくるので、気になる方は調べてほしい。
今回はカツカレーで、割り箸は不要。
もし次来る機会があったら、割り箸を使うメニューも良いかもしれない。
こうして大満足の元、僕は夕闇の中マルカンビルを出発する。
ソフトクリーム編
僕はまたマルカンビル大食堂にやってきた。
今回はソフトクリームを食べるのだ。心に決めている。
週末の昼時で、すごい賑やかな店内であった。
しかしコロナ対策はしっかりしており、お客さんはみんな来店時間や緊急連絡先を紙に書いて提出するシステムとなっていた。
まずはソフトクリームだ。
スタッフさんに「最初にしますか、食後にしますか?」と聞かれたので、「最初」と回答した。
最大瞬間風力、まずは体験してやろうぞ。
デカッ!!
スタッフさんがシルバートレイにいくつも載せて慎重に運んできたソフトクリーム。
そのうちの1つが目の前に置かれた。
怒涛の10段巻きのソフトクリームだ。バケモンだ。
…で、これな、悪いけど2人で挑戦させてもらうわ。
僕、大食いチャレンジャーじゃないし。
このあとメインディッシュあるし。
今回はソフトクリーム対策として、2名で来店したのだ。
ここで登場するのが、割り箸だ。
割り箸で食べるのが、このソフトクリームの正式な礼儀作法だ。マジで。
こんなソフトクリーム、手で持って傾けたら一気に倒壊するからな。デリケートなのだ。
はい、これで冒頭の顔出しパネルの謎、そして昭和レトロな割り箸立ての伏線をまとめて回収できたな。よかったよかった。
…ところでだ。
ソフトクリームには物理的・化学的な弱点がある。
これらだ。
あなたも大人になるまでに学んできたであろう。
すぐ溶けて崩れる、ウィークポイントがこれらだ。
改めて弱点だらけのなんて儚い物体だよ、ソフトクリーム。
もちろんこのウィークポイントから先に、割り箸でそっと摘み、あるいはこそぎ取るのだ。
こうなった。
道具を使ってソフトクリームを食べたからこその造形だ。
中央には縦に穴が開いている。
これも割り箸でそっと食べ進めているからこそ発見できるレアな穴だ。
なんだこれ、まるでちくわぶのようになったぞ。
「上から食べる」⇒「側面を削り取る」を交互に繰り返し、ソフトクリームを食べ進めていく。
途中でメインディッシュが来たようだが、チョット待ッテロ今僕ハ忙シイ。
通常の3倍ほどはあったソフトクリームだが、終わりが見えてきた。
さぁもうあとちょっと。
そして完食。
結論、おいしい・楽しい・2人でシェアしたのに腹いっぱい。
同じ大きさと料金で、カップに入ったカップソフトというものもある。
そして、わずかに安いが普通の大きさ(今回のソフトクリームの3分の1)のミニソフトもある。
…だがね。
ワーキャー言いながら食べたソフトクリームは、最高だった。
これは「ソフトクリーム」という名の競技であり、それと同時にエンターテインメントなのだ。
あなたにもぜひ、この10段巻を味わってみてほしい。
ただ、半分でかなり満腹だ。1人で食べて、さらに食事メニューもあるのだとしたら、大変なことになるかもよ…。
さて、目の前にはドカンとメインディッシュが来た。
どうする!?さて、どうする!??
Aセット編
何を食べようか迷った僕は、Aセットというメニューにした。
なんだか昭和の定食セットのような懐かしさを覚えたからだ。
ショーウィンドウを見ても、アホみたいな盛り方である。
だけども選ぶ際に僕は「ふーん」としか思わなかったのだ。
なぜなら、その直前にショーウィンドウの10段巻ソフトクリームを見たので、大きさに対するバロメータが完全に壊れたからだ。
ダメだコイツ、って感じだ。
運ばれてきた。
ソフトクリームをこそぎ取る手が一瞬止まったほどの衝撃であった。
ハンバーグ・エビフライ・グラタン…。
メインが3つあるぞ。ケルベロスか。
こんなのをこの後食べられるのか、僕は。
スマホを横に置いてみたが、僕の絶望はあなたには届かないであろう。悔しい。
まずはご飯は、お茶碗2杯分はあると思われる。
そしてハンバーグは通常サイズより大振りだ。
普段の僕ならこれだけで満腹MAXだ。
しかしこれに大きなエビフライが2本。最高かよ。
それとアツアツのグラタンだ。
サラダも茶碗1.5杯分くらいで、こんもりとした森が形成されている。
「いただきます」とより先に「ヤバいです」が出てしまった感じだが、とりあえず頑張る。
うん、うまい。
もちろんデパートの食堂なので、専門店のようなクオリティではないよ。
しかし、ハンバーグのテリッテリのソースはご飯が進むし、エビフライも揚げたてのカリカリだ。
そしてグラタンは全人類に愛されてもいいようなマイルドな味わいだ。
これ、令和時代の三種の神器って呼んでいいか?
だが、苦しいのだ。
半分でいい。なんなら、半分もいらない。
これは、3人家族くらいでシェアしてもいいレベルのボリュームだ。
現実逃避をしたくて、ときどき遠くも見た。
しかしみんなファイターだ。ソフトクリームなり、ナポリカツなりと格闘している。
ここは戦場だったのだ。
僕も頑張らねばならない。
同行者はハンバーグに別注の半ライスをつけていた。
半ライスって言っても、お茶碗1杯分あるけどな。
振り返ると大きな作戦ミスを2つ犯していた。
- 僕のAセットとハンバーグが被る。シェアして違うものを食べることで舌をリセットできない。
- なんで半ライスオーダーしたのよ。こっちは大盛りライスに埋もれて死にそうなのに。
とりあえずこっちのハンバーグも少し食べさせてもらった。
僕は1口食べて「うん、こっちと同じ味」と言い、そして目玉焼きと一緒に食べて「濃厚で余計に腹に溜まるわ」と文句を言った。
…完・食!!
死にそうです。お腹パッツパツです。
ぶっちゃけ同行者にかなりヘルプしてもらったけど、全ての皿は空になった。
なんて楽しい食事時間だったのだろう。
ちょっと脳裏にお花畑がチラついたぜ。
ごちそうさまでした。
レトロ食堂、奇跡の復活劇
冒頭であんな書き方をしたけどね、このマルカンビル大食堂が2022年現在も存続しているのは、本当に奇跡なのだ。
ここまでの道のりは、なかなかに大変だったのだ。
1973年、今から50年ほど前にこのマルカンビルが誕生し、マルカン百貨店が始まった。
40年以上が経過し、付近の商店街がシャッター街となっても、最上階の大食堂は昭和レトロなことで注目を集め、賑わいは続いていた。
しかし2015年、耐震検査でNGが出たのだ。
既にビルはかなり老朽化しており、このままの存続は困難だと判定された。
さぁ、どうする?
ビルの改修には数億円はかかる。
でもビルを建て直したら、そんなレベルじゃないくらいにお金がかかる。
止むなく閉店することとなったのだ。
閉店間際の大食堂は、最後の思い出造りをする人が多く訪れて、とんでもない賑わいだったそうだ。
ずーっと昔から地元の人々に愛されてきた食堂だもの。閉店の衝撃は相当なものだったと聞いている。
こうして2016年6月7日、マルカン百貨店はその長い歴史に幕を閉じた。
…しかしだ!!
地元の高校生を中心に、復活のための活動が巻き起こる。
何とか食堂だけでも存続させたいと署名活動をしたりして、人口10万人のこの花巻市で1万人もの署名を獲得したりした。
そして精鋭たちが立ち上がった。
まぁ僕もそんなにここいらの話は詳しいわけではないけれども、資金調達から耐震工事まで、いろんな人が尽力したのだ。
ビル自体は建て直さなかった。
しかし耐震のためにビル自体を軽くしようと、7・8階部分を撤去する案などが出ていた。
現在見る限り7・8階部分は往時と変わっていないようだが、屋上設備などは撤去されたようだ。
さらに、3階~5階の床を撤去したようだと聞いている。
これもビルを軽くするためだ。
だから、エレベーターも3階から5階までは存在しない。
こうして2017年2月、マルカンビルの大食堂が最OPENしたのだ。
地元の人たちは、そりゃもう喜んだそうだね。
僕もニュースで見て喜んだよ。
再OPEN当初は大食堂だけだったけど、2017年6月に1階フロアが大幅リニューアルを施した上で営業再開したとのことだ。
もともと1階は化粧品売り場や婦人服売り場だったそうだが、今はオシャレな小売店がひしめいている。
続けて2020年には、2階に「花巻おもちゃ美術館」という施設がOPENした。
テーマは『0歳から100歳まで楽しめる、多世代交流の体験型木育施設』なのだそうだ。
行ったことないけど、興味ある。
こうして、地域住民の熱意が生んだ奇跡の復活劇。
花巻市のシンボル的存在のビル。
そんなドラマを知ったからには、Aセットを残すわけにはいかないでしょう?
食堂にいる家族連れの笑顔をチラリと見るだけで、ただの部外者の僕までが、なんだか胸が熱くなってしまうの、わかるでしょう?
きっと昭和の時代の人たちも、エレベーターのドアが開いた瞬間のあの光景に胸を躍らせたのだ。
昭和時代はずいぶん遠くなってしまったようだ。
僕自身もデパートの屋上の食堂に行った記憶などはないのだが、なぜか「懐かしい」と感じてしまうのは、日本人としてのDNAなのだろうか?
次に訪問してくれるあなたも、そんなワクワクとノスタルジックな気持ちを胸に、エレベーターに乗り込んで「6階」のボタンを押してくれると嬉しい。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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