道東の草原地帯を走るのだ。
ただただ、緑色の大地を見ながら走るのだ。
するとあなたは間違いなく驚く。
前方の丘に描かれた、とんでもなく巨大な「牛」の文字に…。
以上で、ぶっちゃけ書きたいことは全部終わってしまった。
これが全てなのだ。
あとは正直な話、蛇足になってしまうかもしれない。
しかし、せっかくなのでもう少しだけ語らせてほしい。
「牛文字」こと「モアン山」のことを。
ビーフ・インパクト
一時期は、「松屋」の牛丼が主食であった。
国際線の機内で「ビーフ or チキン?」と聞かれたら、ノータイムで「ビーフ!」と回答しようとイメージしているが、未だにそのチャンスが回ってこない。
ようするに、牛が好きだ。
みなまで言わせるな。
2006年の秋のことであった。
僕はライダーの「katsu君」と共に道東の草原を疾走していた。
katsu君とは、昨日の弟子屈町の旅人宿で知り合ったのだ。
意気投合し、本日は一緒に裏摩周の「神の子池」を観光する予定だ。
先にkatsu君が軽快にバイクを走らせ、その後ろをヘビー級の日産サファリで僕が追走していた。
そのときふと、異次元な光景が目に飛び込んできたのだ。
牛。
これが、僕と牛文字との出会いだ。
北海道の某所では「ディープ・インパクト」というレジェンド級のサラブレッドが誕生しているが、これはビーフ・インパクトだと思った。
「katsu君、牛!牛!!」
…って思ったが、残念ながら教習所では「前方を走るライダーに対し、丘の斜面を注目させる方法」ってのを教えてはくれない。
心の中で「牛!牛!!」って叫びながら、神の子池まで走ったさ。
「あぁ、確かに牛の文字がありましたねぇ。」
神の子池でバイクを停めたkatsu君がそう言った。
いや、落ち着き払っているんじゃねーよって思った。牛だぞ牛!って思った。
しかし、あの丘は見間違いではなかった。
ぶっちゃけ本当に夢でも見たのかと思ったが、現実であった。
そして心に決めた。
いつかまた牛文字の写真を撮ろうと。
まだ北海道をロクに知らない時代の、淡い野望であった。
※前述の写真は2006年当時のものではなく、後年再現するために撮影したものである。
牛文字の誕生
さて、ここまでがプロローグだ。
白昼夢のようなあの巨大な牛の文字は、いったいなんだったのだろう。
あの山、名前を「モアン山」という。
標高365.7mの、牧草に覆われたツルリとした山だ。
そして、あの牛の文字は「牛文字」・「牛の文字」などと呼ばれている。
縦100m横60mもある、超ビッグサイズ、それこそ北海道スケールの文字である。
見てくれ、この木とのスケールの対比を。
「ワオ、クレイジーだぜ」とアメリカ人みたいに呟いてしまう。誰だってそうなる。
この牛文字は、2005年に爆誕したのだそうだ。
僕が最初に見つけて「アワワワ…!」ってなった1年前だ。
作成した理由は諸説ある。
以前聞いた中で有力だったのは、「牛乳をアピールするために『牛乳』と書こうとしたが、『牛』を大きく書きすぎて『乳』を書くのを諦めた」みたいなものだ。
なるほどおもしろいが、北海道の人はそんなに無計画じゃなかろうに。
どうやら真相は、地元の農協とかの団体が作成したものだそうだ。
地域起こしのために、インパクトのある文字を丘に彫ろうと。
『牛』の意味は、「牛乳」・「牛肉」、そしてこの地域の地名である「養老牛」など、複数のものを連想させる。
見る人によって、そういった自由な発想をしてもらうことが狙いだらしい。
こうして日本一大きな牛文字が誕生し、ときどき草を刈ってしっかり文字が残るように管理されているのだ。
ホント、とにかく大きい。
上の写真を見てほしい。車がゴミのようだ。
大文字焼きならぬ牛文字焼きをやったら、すんごいスケールになるぞ、これ。
こうして、ツーリングマップルにも掲載され、多くのライダーも訪れるスポットとなった。
ちなみに、 牧草を育てている夏前後のシーズンは一般人は入れないので、もし山を登ろうとお考えなのであれば、冬から春までだ。
2006年度版のツーリングマップルの同じエリアである。
2005年の実走データを基に作成されているのだが、タイミング的にまだ牛文字が掲載されていない、貴重なものだ。
だからこそ、情報ゼロの状態であの「牛」を見た僕が面食らったわけなのだ。
牛文字と愛車
牛文字は、少なくとも2021年現在は観光地ではない。
観光客用の駐車場などもない。
短い時間であれば、向かって南東の道道150号に車を停めて、冒頭に掲載したような写真を撮ることも可能だ。
あとは、付近に張り巡らされている防雪柵の隙間、かつ駐車できそうな路肩スペースがあるところをうまく探すのが良いだろうか。
上の写真は、2006年のリベンジとして再度北海道を訪れたときのものだ。
若干霧が出ていてパッとしない天気であったが、牛のインパクトは何ものにも勝る。
同じ車だが、これはまた別の訪問時のものだ。
ちょうどお盆で、かつ晴れていてカッコイイ写真が撮れた。
牛文字もメンテナンス直後であったのか、剃り跡が新しいぜ。
どうやら人力で丁寧に刈っているらしい。頭が下がる。
何度も訪問しているが、こんなにきれいな「牛」だったのは、この回だけだ。
ほれぼれするような、美しい「牛」だ。
これは日本4周目のときの写真である。
秋色に染まる牛文字もまた、美しい。
もうすっかり牛文字の虜であった。「牛」を見上げて、旅情を感じていた。
日本5周目では天気が悪く、近くまで行ったもののスルーしてしまった。
だが、日本6周目で再び戻ってきた。
相変わらずご健在な「牛」に、僕はご満悦であった。
道東の草原を放浪する者よ
僕は道東の草原が大好きだ。
もうサポート期間が終了してしまったが、WindowsXPの、あのデスクトップ背景の草原みたいな景色が好きだ。
道東にも有名な草原を眺めるスポットがいくつもある。
しかし、名前の無い草原の中をただただ走っているのが最高なのだ。
涼しい風を感じながら愛車を走らせ。
「なんかいいな」と思う景色があったら車を停め。
そばに共感できる旅人がいたら、挨拶をして情報交換をするのだ。
牛文字もそんなエリアにあり、そんなスポットの1つだ。
草原を巡り、丘を巡りながらも、モアン山の牛文字に足を運んでほしい。
そうすればあなたもきっと、巨大な牛文字が書かれた理由を理解できると思うのだ。
そうだな…。僕も道東を1文字で表すとしたら、「草」か「牛」だ。
山に書くことを考えたら、シンプルに「牛」が良いと思うのだ。
ありがとう、道東。
ありがとう、牛たち。
そしてありがとう、日本の一次産業を支えてくれる人たち。
余談だが、冒頭のkatsu君とはこの旅の中で偶然に1回会い、さらに終盤に待ち合わせして3回目の邂逅をした。
その後も道内で会ったり道外で会ったりしている。
ライダー王国北海道。
その中でも、多くの冒険者が集う道東。
コロナが収まったら、ぜひまた行きたいのだ。
あなたも、機会があれば行ってみてほしい。
そしたらさ、牛文字の前で待ち合わせしよう。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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