古代、人は満天の星空に絵を描き、そして巨大な岩に神を見出した。
文化は違えど、世界中で巨石信仰の文化があった。
イギリスの「ストーンヘンジ」のようなものは、世界のいたるところで見られる。
岩には神が宿るのだ。
全国には、いろんな巨岩・奇岩がある。
そんな岩との出会いも、また旅のスパイスなのではないかと、僕は考える。
僕もさまざまな岩を見ながら全国を走ってきたが、その中でも印象深い巨岩スポットを1箇所、佐賀県からご紹介したい。
過去に3回ほど訪問しているので、それらをミックスさせたエピソードにてお届けする。
巨石のもとへ
その日、本土と橋で繋がった「加部島」のドライブを終えた僕は、佐賀県の海岸線を東に走っていた。
数km走ると海の向こうにゴロンゴロンと無造作に投げ出されたような巨石群が見えてくる。
ギザギザのボコボコである。
和歌山県の「橋杭岩」を彷彿とさせるようなノコギリタイプの巨石群だ。
そのスポットの名は、「湊の立神(たてがみ)岩」。
そして、結論から申し上げると、僕はこの後あのへんまで行く。
ダイナミックな「桜島」や、雄大な「阿蘇」のドライブの後ということもあり、市街地の多いエリアのドライブに少し物足りなさを感じていた僕。
彼方に刺激的な景勝地を見つけて色めきだつのは、いたって正常な反応だと自負している。
行きたい。あの岩山が得意げにピースしているかのような部分に行きたい。
なんだあれは。岩ってピースするのか。
ガソリンスタンドの手前に、めっちゃ小さな案内看板がある。
とても地味な案内だ。
知る人ぞ知るようなマイナースポットなのだろうか。
ハンドルを切ると、途端に道は細くなった。
しかし現地までの距離はわずか300mほどだ。気にしない。
すると路面が未舗装になった。
快適な国道からわずか200mで、ワイルド・アドベンチャーゾーン。
車、跳ねる。実に愉快である。
一点、ご留意いただきたい点がある。
2021年現在は、この道は舗装されている。
僕がここを訪問したのは、ちょっと昔の話なのだ。
本当であれば2019年に九州を一周した際にも立ち寄りたかったのだが、雨な上に時間に追われていて、泣く泣くスルーしたのだ。
さて、道の突き当りまで来た。
そこは空き地になっている。
最初の2回はここに車を停めていたが、3回目の訪問時には『原則駐車禁止。でも必要なときは宿の許可を。』、みたいな意味の立て札が建っていた。
そこは「立神荘」という民宿の敷地のようなのだ。
そりゃ、無断に停めたらダメだよな。前回以前は気付かなくって申し訳ない。
おそらくは長時間駐車する釣り人などへの注意喚起の立て札と思われたが、民宿の方に挨拶をしよう。
「岩を見に来たんですけど、10分くらい停めといていいですかー?」って聞いた。
そしたら民宿の方がステキな笑顔で「どうぞー!」って答えてくれた。
ありがたいご対応だ。
あと、空き地にサボテンがモリモリ生えていて異国情緒だった。
天に聳える立神岩
では、立神岩に向かって歩いていこう。
周囲は世紀末かのように巨石が躍り狂っているが、遊歩道があるので人間は安全に歩ける。
…いや、安全とは言い切れない。
落石注意の看板があったわ…。
※記事公開後に、現地近くの方から情報をいただきました。
2021年現在、立神荘より先は立入禁止なのだそうです。残念です。
あと、地元ではやはり「ピース岩」という愛称があるそうです。
情報ありがとうございました!!
立神岩といえば、天に向かって聳える2つの巨石を指すようだ。
さっき遠目で見て、ピースしているかのような、あるいはウサギの耳のように見えたら岩だ。
しかし、それ以外の岩もなかなか個性的。
全部が合わさって、立神岩という景勝地を作っていると感じる。
一度、干潮のときに訪問したことがある。
普段は波を被る岩が、完全に陸上に露出している。
すごい光景だと感じた。
これ、玄海灘の荒波が長い年月をかけて侵食し、できたのだ。
しかし僕はこの光景を見て、違う想像をしてしまう。
こんなことをできるのは神だ。
神が立てた岩だから、立神岩というのだろう。
神と名の付く由来は、現地の看板にもWeb上でも見つけられなかったが、名は体を表すのだ。
その神は、山のように巨大だ。
しかし、わりと幼児だ。
巨石な岩を、まるで積み木のように、無邪気に積み上げるのだ。
しかし、途中で波が打ち寄せ、せっかく積み上げた岩がグチャッと崩れるのだ。
神はムカついて、その場を立ち去る。
…まさにそういう光景な気がする。
無惨に崩れた、巨石なパーツの残骸なのだ。
さて、岩の上を見上げると、フニフニしたデザインの物体が育っている。
なんだろう、あれは。
観音様かな?
巨石信仰の一環で、あそこに観音像を祀ったのだろうか?
それが風雨の侵食で、あのようにデフォルメされたのだろうか?
最初にあそこに観音様を持ってった人は、村の英雄だな。
僕ならできないね。いや、むしろ引き受けないね。
バランスを崩して、頂上から観音様を転げ落とし、首がパッキリ折れるシーンが鮮明にイメージできるから。
間近まで来た。
眼前に迫りくる、この巨石の迫力よ。
そして、その前には説明板が設置されている。
玄界灘に面した玄海国定公園の一部に、玄武岩の大石柱が二個そそり立っているのが立神岩です。
これは玄武岩の断崖が玄海の荒波によって浸食されてできたもので、直径20~30センチメートルあまりの灰黒色の柱状節理が規則正しく並んでいるのが特徴となっています。
周囲6メートル、高さ約40メートルの男岩・女岩を、人々は夫婦岩として敬っています。
東部岬には第三紀層の福井層が露出するなど、諸種の溶岩が点在し、地層と海食現象を観察することができます。
なるほど、まるでビルのようだ。
40mの高さはハンパではない。
こんなに近づいてしまって大丈夫なのかというハラハラドキドキがある。
倒れたら怖いぞ。
特に立ち入り禁止の設備もないので、斜めになっている岩部分に足をかけた。
下界はなかなかの迫力だった。
迫力のある自然美と一体感できたように感じた。
とてもカメラを構えられる状態ではないので、写真はないが。
尚、前述の通りこれは少し昔の写真である。
2021年現在はここまでは入れなくなっているかもしれないので、ご承知おきいただきたい。
…しかし、岩っていいな。
地球の歴史が無造作に地表に転がっているようなものではないか。
そして、立神岩のこのサイズがいい。
世の中には、超巨大な一枚岩もある。それはそれで圧倒されるが、岩と言われてもピンと来なくなる。
むしろ山であり、崖だ。
草や木が生えすぎていても、「こいつ、昔と違って落ち着いちゃったよな」みたいな気分になる。
僕が岩に求めるのは、擬態語でいうなら「ゴロン」としたもの。
そして「ゴツゴツ」したもの。
それでいて、限界まで大きい。
立神岩は、まさにそれらを兼ね備えた理想形なのではなかろうか。
だから好きなのだ。
あなたにも、「岩を見たければ立神岩に行け」と、声を大にして言いたい。
そして、太古の神のいたずらでも頭に描きながら、ボーッとここで過ごしてもらいたい。
そう感じた、麗らかな春のある日。
いいものを見れたと立神荘の方にお礼をいい、僕はまたアクセルを踏む。
以上、日本6周目を走る旅人でした。
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