あなたは「ベタ踏み坂」をご存じか。
かつてダイハツの"タントカスタム"という車のCMで登場した坂道である。
まぁ文章でご説明するよりも、CMそのものを見ていただいたほうが早いので、下記にリンクを貼らせていただこう。
…すごいよね。
坂の傾斜もすごいし、タントカスタムもすごい。
実はこの坂道は実在するのだ。
今回は、日本6周目のとある年のゴールデンウィークに、このスポットを撮影するために島根県を訪れたエピソードを執筆したい。
実走、ベタ踏み坂!
鳥取県の境港市から、ベタ踏み坂のある「江島」という島に向かう。
走行シーンを撮影したいので、カメラは助手席に預けた。
新緑が目に眩しい。
車窓から吹き込む風も心地よい。
ドライブに最適な季節だ。
ところで、僕が撮影したいベタ踏み坂は、以下のサムネイルのような感じだ。
まさに壁。
自分の目でこれを見て、そして撮影したいじゃないか。
それを目当てに、やってきた。
このベタ踏み坂と呼ばれる急勾配は、江島大橋の島根県側である。
鳥取県側からやってきた僕は、まずは江島大橋を渡り切り、そして坂部分を振り返るようなイメージとなる。
見えてきた、江島大橋だ。
まぁまぁの斜度である。心躍る。アクセル踏む。
こんにちは、島根県。
写真ではわかりづらいかもしれないが、今、車は橋をグイグイ登っている。
さながら天空へと向かっているのだ。
…というのは言い過ぎかもしれないが。
この程度の坂道は、少し山の多い地域であれば普通にあるだろう。
しかしだ!
海や川に架かる橋を登るというのは、それらとはちょっとだけ感覚が違う。
大概のケースにおいて、左右に陸地が見えない。
つまり、視界は空と道路だけとなる。
だから、たぶんあなたの想像以上に僕はワクワクしているのだ。
例えると、ジェットコースターの最初の巻き上げエリアである。
あの心臓の高鳴りが、今の気持ちとほぼイコールなのである。
さぁさぁ、そう言っている間に橋の頭頂部分が見えてきた。
橋の登頂エリアを走っている。
駐車は原則不可能だ。
下にはきっと海が広がっているのだろうが、残念ながら車内からでは見えない。
しかし、空が広くて天空感がハンパない。
脇には歩道がある。
歩いて県境越えをする人や、下に車を停めてここまで絶景を見に来る人がいるのかもしれないな。
橋を下りだした。
ここがベタ踏み坂である。
「そんなに言うほど急斜面かな?」と思ったあなた、その感覚は間違いではないので、大切にしてほしい。あとでご説明しよう。
あと、正面の海のさらに向こうに陸地が見えている。
これも後々大切になるので、覚えておいていただきたい。
助手席に対し、「下り坂と正面の陸地をズームして撮影してほしい」とオーダーした。
海の向こうに平たく横たわっているのが、「大根島」という島だ。
「おおねじま」ではなく「だいこんしま」と読む。素朴なネーミングだ。
さらにその向こう、こんもりとした山になっているのが島根県本土である。
全部橋で繋がっている。
ベタ踏み坂を下りきった。
県境を示す看板は、ここで出てきた。
では、改めてベタ踏み坂を振り返ろうではないか。
江島からのベタ踏み坂
橋を下ってそのまま700mほど進んだところに、ファミリーマートの江島大橋店がある。
ちょっと買い物したいものがあるのでここに立ち寄る。
ついでにベタ踏み坂を振り返ろうと思う。
ベタ踏み坂を下りきった地点から、既に750mも離れている。
ここから坂を撮影する。
あなたは「そんな遠くまで来てしまって…。もっと近くで撮影できればよかったね。」って思われるかもしれない。
いや、しかし僕はあえてここの場所を選んだのだ。
かなりズームして撮影してみた。
どうだろうか?
冒頭のCMの5秒目のシーンと見比べて見てほしい。
少ーしズレてはいるが、ほぼ同じ位置からの撮影であり、そして坂の斜度もCMそのままでフレームに収めることができた。
※ CMは結構余計な建物や電柱などを消去しているのね。
今回は、この「ズームしてみた」の部分がポイントである。
仮にベタ踏み坂を下りきった直後に撮影しようと思うと、上記のようになる。
あんまり迫力が無い。
アクセルをベタ踏みしなくっても、余裕で登っていけそうな角度の坂だ。
Googleマップのストリートビューにて、ファミリーマート近くまで戻り、ベタ踏み坂を振り返った。
道路のずっと向こう側にベタ踏み坂が見えているが、小さすぎてほとんど見えない。
だからこそ、ズームをする。
同じ写真を思いっきり拡大してみた。
ストリートビューなので拡大するにも限界があるが、その限界が上記だ。
さらに中央部分だけを切り取って考えれば、僕の撮影した写真やダイハツさんのCMに相当近い構図になったと考える。
詳細は後述するが、「高さを強調したいのであれば、遠くからズーム」。
これが基本だ。
まぁカメラが趣味の人は既に知っている人が大半かもしれないが、これは僕が大昔の無知だった頃の僕自身に投げかけるメッセージとでも、思っておいてほしい。
それじゃあ、もっと離れて撮影したらもっとすごいのか??
ちょっと付近の地図を見てみよう。
はい、残念でしたー。
ファミリーマートがほぼベタ踏み坂から一番遠いところですー。
もうこの背後は海ですー。無理ですー。
…と言うとでも、お思いか。
海の向こうに、大根島がある!!
ザックリ図ってみたら、ベタ踏み坂の終着地点から大根島の海岸までの距離(青線)は、およそ2.8㎞であった。
ファミマまでの750mとは次元が違う。
しかし、僕は大根島から撮影してみたいのだ。
できるのか?写るのか??
大根島からの超遠望
大根島に向かって再び車を走らせる。
走りやすいフラットな道が続いている。
ご覧の通り、江島はほとんど傾斜の無い平らな島だ。
だからこそ、島のほぼ反対側からでも先ほどの通り橋のほぼ全容が見えたのだ。
なんか不安になるくらいにベタ踏み坂から遠ざかってしまったぞ…。
こんなところに愛車のパオを駐車してみた。
ここからの撮影がベストと判断した。
別に「ここが撮影ポイントですよ」みたいな目印もないし、そして海と車道の間には土手があり、運転席から海は見えない。
だからどこからの撮影が良いのかは、ちょこちょこ車を停めつつ江島を眺め、微調整しつつ辿り着いたのが、上の写真だ。
おさらいしよう。
僕は、上の図の青線の延長線上にある「●」地点まで辿り着いた。
前述の写真で示すのであれば、写真上の「●」地点である。
この写真だと結構近いが、実際はかなり遠いのだぞ。
さて、土手を登って江島方面を眺めてみようか。
はいー、海が綺麗だー!
しかしベタ踏み坂はどこだーー!
…と、一見こうなる。そのくらいに距離が離れてしまっているのだ。
肉眼だとこうなのだ。絶望した。
正解を言うと、ベタ踏み坂は写真のやや右寄り、水平線のすぐ上が若干白っぽくなっているエリアにある。
あそこが江島の中でも建物が多いエリアであり、だから白く見えるのだ。
スマホでズームしてみた。
そしてこれがスマホの限界でもある。
おわかりいただけるであろうか?
ベタ踏み坂は確かに上の写真に写っている。
ここだ。
ズームしてもこうなのだ。
ムスカだったら「見ろ!橋がゴミのようだ!!」って言ってるくらいの小ささだ。
ここで僕は、コンパクトデジタルカメラに持ち替えた。
これで精いっぱいズームをする。
うん見えたね。
上は静止画ではあるが、カメラのモニターを見ると、小さな小さなアブラムシみたいなサイズの車がちょびちょびと坂を上り下りしていて面白かった。
帰宅後、自宅のPCに写真を取り込み、さらにトリミングをしてみることにした。
…うーん。
スマホから見て、ギリギリごまかせるくらいの写真だろうか…?
さらに画質が潰れることを承知で、本来の理想形くらいまで写真を引き伸ばしてみた。
そう、これこれ。
視力0.01の人の世界観みたいになってしまったが、高解像度でこのくらいの写真を撮れればよかったなって思うのだ。
ズームの世界
当たり前のことかもしれないが、近くにあるものは大きく見え、そして遠くにあるものは小さく見える。
しかし、対象物から離れた距離が同一の場合、等しく対象物が小さくなるかと言えば、そうでばないのだ。
今回の写真はその特性を利用したものである。
文章ではわかりづらいと思うので、図解したい。
手を伸ばせば届くくらいの距離のところに、人間がいるとする。
その人を写真に撮れば、せいぜい胸から上くらいしか写らない。
10m離れれば、フレームに対しかなり小さめの人物像となる。
観光地でカメラのシャッターをお願いした人が10m先まで行ってしまったら 、「あー、ちょっと遠すぎやしませんかね」くらいな気持ちになる。
次は「富士山」を例に挙げたい。
例えば富士山から30㎞程離れた「河口湖」から富士山を撮影するとき、「うーん、富士山まで遠いからあと10m近付こう」とかするだろうか?
する人もいるかもしれないが、しない人が多いだろう。
なぜならば、10m近付いても遠ざかっても、富士山の大きさはほぼ変わらないからだ。
- 自分から1mの距離に対象物がある場合、さらに10m(10倍)の距離を取ると、対象物はすごく小さくなる。
- 自分から30,000m(30㎞)の距離に対象物がある場合、さらに10m(1.0003倍)の距離を取っても、対象物の大きさはほぼ変わらない。
僕は算数苦手なのでここいらが限界だが、ようするに比率の問題だと思う。
これらの要素を踏まえると、富士山の前で記念撮影をする場合、人物からなるべく離れてズーム撮影するとか、撮影した後トリミングをすると、迫力のある構図になる。
実際の例をご紹介しよう。
これはこれでいい写真ではあるが、車から50mほど遠ざかってズームをすると…、
こんな感じになるのだ。
車は1ミリたりとも動かしておらず、僕はただただ車に対し真っすぐ後ろに下がっただけだ。
しかし富士山の迫力が違う。
観光パンフレットなどの写真はこの原理を利用して作られる。
マンションのチラシとかで「富士山を臨む立地」とか書いてあるものも、すさまじく望遠でマンションと富士山を撮影しているケースが多い。
ベタ踏み坂もこれと一緒の原理なのだろう。
「僕と坂までの距離」が離れれば離れるほど、「坂の下から坂の頂上までの距離」は取るに足らないものとなる。
結果、坂が縦に潰されて立体感がなくなり、壁のように見える。
裏を返せば、この原理を応用できる坂はいろんなところにある。
ベタ踏み坂は、その中でも見栄えがすごくよかったのだ。
江島のファミリーマートに貼ってあったポスターが、これである。
ここまでのズームをするには、とんでもない高性能なレンズが必要であろう。
このレベルの撮影ができるとは最初から思ってはいなかったものの、それなりにズームの効くコンパクトカメラは持っていた。
しかし、この旅行に旅立つほんの10日ほど前に、そのカメラが壊れたのだ。
その後も予定がキツキツにあり、カメラを買い替えることが出来ずにこの旅となった。
この旅で使ったのは、家族が所有している10年ほど前のカメラであり、したがって今回掲載した写真が限界だったのだ。
その後、僕は新しいコンパクトカメラを買った。
ズーム機能のすごいヤツ、っていう基準で選んだ。
とんでもないズームが効く。
これでまたベタ踏み坂を撮影したいのだが、昨年からのコロナウイルス蔓延で、山陰地方に旅立てずにいる。
今年、2021年のゴールデンウィークもまた、家で過ごすことになりそうだ。
せめてもの思いの丈を吐き出したく、今回の執筆となった旨をご容赦いただきたい。
…春 ― 。
ドライブやツーリングには最高の季節である。
早く以前のようにお出かけできるようになり、あなたとどこかでお会いしたいものですね。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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