僕は幽玄な屋久島の森が好きだ。
特に「白谷雲水峡」は何時間過ごしても飽きることがない。
ただ、海の彼方のあの島を再訪するのは、なかなか容易なことではない。
…と思っていたが、山形県の某所に屋久島を彷彿とさせるような、巨大な杉の立ち並ぶ森があるという。
そのスポットの名は、「幻想の森」。
もう、そのネーミングだけで気になる。
コロナウイルスに伴う県越えが世間的にほどほどに許され始めたタイミングで、アプローチしてみた。
狭路・未舗装・坂道
「最上川」沿いの国道から、急遽冒険はスタートする。
それが、この分岐だ。
標識を見上げるような構図となってしまったのは、この標識があまりに小さく、そして突然出てくるからだ。まさに通過してしまう寸前であった。
「そろそろだろうなー」とキョロキョロしていたにも関わらず。
この標識は、各所で見つけづらいと言われているようだ。
現に僕も、かつてこの国道47号は何度も走行しているが、幻想の森の存在に気付くことはなかったし。
Googleさんから分岐部分の画像を拝借してきた。
一本道の快走路に、突如この小道である。そりゃわからん。
カーナビでも出てこないし。
国道を反れて5mでこれだ。
まだ国道は写真の右端に映っているのだが、もう僕の住む世界はワイルド&アドベンチャーになってしまった。
地面が舗装されていたのも束の間。
アスファルトはすぐに取り上げられてしまい、あとは延々砂利道だ。
ゆっくりゴトゴト言わせながら走る。
国道からのルートは、少なくとも2020年現在のGoogleマップやYahoo地図にはない。
どんなルートで森へと向かっているのかよくわからないが、分岐はほぼ無いし、わかりづらいところには看板もあったので安心だ。
梅雨の晴れ間の青空がたまらない。
今が一番、森がいきいきしている季節ではなかろうか?
こんな景色を見ながら走っているだけで、震えるほどに感動する。
僕は、本当にドライブが好きなのだな。
とにかく山を登る。
結構標高、上がったかもしれない。
木々がハデに伐採されているゾーンもあった。
ここいらで初めての分岐。
そして、到着。
行き止まりが幻想の森の駐車場だ。車数台分の駐車スペースがある。
駐車場までは、国道から10分ちょい。
その間、すれ違った車は1台もいなかった。
(帰りは1台だけすれ違った)
では、朝の散歩の開始といこうじゃないか。ワクワク。
幻想の森を歩く(森の主との出会い)
さて、ここまでの道のりで、巨木が乱立しているような雰囲気など全然なかった。
駐車場近辺で、急に木々に囲まれた。
この先が、幻想の森なのだろうか?
駐車場に説明版がある。
ちょっと内容をご説明しよう。
幻想の森
最上峡一帯に分布している天然杉は、タコ足状に幹が分かれた多幹型の老杉が多いことが特徴です。
この杉は太平洋側のオモテ杉に対しウラ杉と呼ばれ、地元では地名から山ノ内杉、土湯杉とも呼ばれています。
ここ最上峡には樹齢1000年を超えるとも思われる巨大な杉が数多く自生し、太いものは幹周りが15mもあり、枝葉が細いという特徴もあります。
オモテ杉の代表として屋久杉が知られますが、ここ最上峡の天然杉林も京都の芦生杉、富山の立山杉、隣県の秋田杉と並び最大規模と言われています。
また、ブナと混交し林床にユキツバキを持つ点でも他に類例の少ない群生地です。
おぉ、ここで京都の「芦生の森」の名前が出ますか。
かつての冒険を思い出すな、懐かしい。
では、内容をザッと頭に入れて、歩き出そう。
歩道は基本平坦。とっても歩きやすい。
普段履きのスニーカーで充分すぎる装備である。
この敷き詰められたウッドチップ。
お布団のようにフッカフカである。
かなり丁寧に手入れをされている森なのだな。
巨大な杉に囲まれた。
わりと表面ツルツルで綺麗だな。これで樹齢1000年近くいってたりするのだろうか?
スマートに1000年を過ぎしてきたに違いない。
陽だまりの広場の中央に、ドーンと特徴的なかたちの杉が鎮座している。
これ、この森の主(ヌシ)だ。主と呼ぼう。
Webサイト各所でも、この杉を語らずして幻想の森は語れない、ってくらいに必ず登場している。
説明板には『タコ足状に幹が分かれた多幹型の老杉が多い』と書かれていたな。
まさにこれがそうなのであろう。
このエリアに自生している天然もの。
植林した杉のようなシュッとした感じはまるでなく、パッと見では杉とはわからないような迫力がある。
ちなみに、僕と対比するとこのくらいの大きさだ。
僕、根元の分岐のところすら身長が届いていない。
この杉がメチャメチャ大きいことがご理解いただけると思う。さすが主だ。
主の背面。
もうなんだか、巨大な宇宙生命体のような奇抜なフォルムだ。
ドクンドクンと心臓のように脈を打ち始めそうだ。
そう、森は生きている。
幻想の森を歩く(太古の森を巡る)
他にもユニークな杉はたくさんある。
例えば、写真中央の杉。
幹に大きな穴が開いている。
穴からコンニチワーができる仕様だ。
小さい子供ならば、潜れるかもしれない。
ま、老木だからそういうことは避けたほうがいいとは思うけれども、そういうサイズ。
写真左も、タコ足タイプの杉。
ぐんにゃりと分岐している。どういう気持ちになると、あんな分岐を生み出せるのか。
接近してみた。この曲線美、たまらんね。
オモテ杉とかウラ杉とかは正直初めて聞いたし、違いもよくわからないけど、ウラ杉ステキじゃないか。
個人的には、正面奥に見えているようなツルツルに丸みを帯びた感じの杉が好きだ。
スギっぽくないし、人工物っぽい雰囲気すらするけど。
どこかでこんな気を見たことあるなーとデジャブを感じ、必死に記憶の引き出しを開け続けた。
もしかしたら、「ディズニーランド」かもしれない。
「クリッターカントリー」とか、こんな感じのクネってツルツルの木が多く配置されていなかっただろうか?
木は、自由だ。
天然がゆえのフリーダムな成長の軌跡。
そして自由がゆえの、圧倒的な力強さ。
人間は、ちっぽけだ。
遊歩道から奥の方を覗くと、ギッチリと杉の木が林立している。
まるでその枝葉が、炎の揺らめきのようにも見えた。
いや、それは幻想なのだが。
そんな雰囲気を、僕は確かに感じ取ったのだ。
木々は暴れ、ウネウネと踊る。
人里離れた森の中に、木々の楽園が存在した。
森の中には、他には誰もいなかった。
完全に異世界に迷い込んでしまったような、そんな気持ちになった。
日々の仕事の悩み?そんなものはとうに消し飛んだね。
ただただ、導かれるままに歩いた。
一歩一歩、足を進めるとともに、自分が森の中に溶けていくような感覚だ。
そして…。
主(ぬし)。
あれ??
なんで主がまた出てきたの?
僕は一本道をひたすら進んでいただけなのに?
…どうやら、遊歩道が緩い円を描いていたようだ。
僕は一周して、また主のもとへと帰ってきた。…たぶん。
幻惑の世界にいないよね?
念のため、再度遊歩道を歩いた。
実際、サクサク歩けば10分もかからない遊歩道だ。
気持ちのいい朝の散歩なのだから、2周くらいわけもない。
注意深く歩けば、遊歩道が湾曲しているのがなんとなく感じ取れる。
さっきの景観を再確認しながら、僕は3度目の主と邂逅した。
案内板には『ここ最上峡の天然杉林も(中略)最大規模』と書かれていたので、壮大な遊歩道をイメージしていた。
しかし実際のところ、人が立ち入ることのできる部分はそこまで広くはない。
裏を返せばそれだけ、杉の世界が人間に干渉されずに残っているということかもしれない。
僕が見れたのは、そのほんの一部。
でも、その一部にて感じたことは、大きかった。
見上げると、徐々に高くなってきた太陽。
夏の日差し。
いきいきと伸びる若葉。
無限のエネルギーを感じた。
そして僕も、この森からエネルギーと癒しをもらうことができた。
今日のドライブはまだ始まったばかりだ。
梅雨の晴れ間の陽光を浴びながら、また車はゴトゴトと山を下っていく。
ありがとう、幻想の世界。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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