四国本土の最東端。
そこは「蒲生田(かもだ)岬」という。
正直、なかなかにマニアックな岬だ。
擦れ違い困難なクネクネ道を延々に攻略し、ようやく辿り着く四国最東端の地。
今でこそ観光客を意識した碑やモニュメントが置かれ、道路状況もずいぶん良くなった。
しかし一昔前まではそれらもなく、ただただ突端マニアの試練の地として、旅人たちの前に立ちはだかっていた。
今回は、過去の思い出と共に蒲生田岬攻略戦を振り返りたい。
17kmの狭路を進め
北海道・本州・四国・九州。
日本の本土と言われるこの4つの大きな島、それぞれの東西南北端がある。
詳しくは、僕の書いた以下の【特集】をご参照いただきたい。
この16岬の中で、四天王と呼んでもいいんじゃないかという岬が4つある。
「トドヶ崎」・蒲生田岬・「佐田岬」・「鶴御崎」だ。
うん、蒲生田岬も四天王にエントリーしている。
選定基準は、この岬1つを目指すだけで(場合によっては)半日くらいを要するということ。
厳密に言えばそれぞれの岬の近所には他の景勝地もあるのだが、それでも上記岬の付属的な位置づけだ。
※僕個人の見解なので、異論ある人もいるでしょうけど、そこはご理解いただきたい。
確かに岬は魅力的だ。
しかし岬を往復し、また同じ地点に帰ってこないと旅の続きができなかったりして、精神的にもなかなか疲れる。
どこかに向かう途中に気軽に立ち寄るわけにはいかず、この岬のために旅の行程を調整する必要があるのだ。
全てはここから始まる。
標識によれば、蒲生田岬までは17㎞。
この距離だけ見れば、大した距離ではないように思えるかもしれない。
しかし、たぶんだけど、あなたの想像よりも思い出深い17㎞になると思う。
凶悪なほどにグチャグチャした地形と道路。
その中でも、チキンな僕は一番まともだと思われるルートを選択する。
序盤はのどかな集落の中を走っていく。
ま、ちょっと狭いけどな…。
正面からISUZUのトラックが来たら、どうしたらいいのかわからなくなる。
畑の中のスラロームは、対向車さえ来なければなかなかに面白かったりする。
この辺でせいぜい笑っておくとよい。
あとで顔がこわばるから。
左右への分岐。
前述の地図では、蒲生田岬とその1つ北の岬とを隔てる、大きな入り江の部分だ。
ここは橋を渡って右の道を選ぶ。
橋のたもとには昔ながらの商店がある。
ここから一気に雰囲気が変わる。
狭いしアップダウンが豊富。
対向車が来たらどうしよう。
海ギリギリと、山肌ギリギリを交互、あるいは一緒に満喫できる。
贅沢だ。
HUMMER_H3のように車幅のある車だと、なかなかギリギリ。
水門の脇を掠めるように通過する。
もうちょっと進むと、静かな入り江がある。
小舟が浮かんでいて絵になる。
車道からはガードレールもなく、ほぼ同じ目線に海。
ちょっと怖いけど、ここで風景写真を撮ったりする。
段々畑を駆け上がる、芸術的なスラローム。
過去3回、おそらく2mとズレていないくらいの位置でこのスラロームの写真を撮っていて、結構笑える。
オマエはそんなスラロームが好きか、と自問自答する。
日本6周目の愛車のパオは、歴代最小の車である。
狭路も苦にせず、すごい勢いで攻略していく。
めちゃくちゃオンボロで非力な車だが、狭路にだけはとんでもなく強い。
ついでにもう1つ峠を越える。
ここいらの道はかなり綺麗になった。
一時期はボロッボロのアスファルトで、本当に先行き不安であったし。
クライマックス
時系列順で行くと、このあたりで「かもだ岬温泉保養センター」というのが出てくる。
しかし、今は岬へのアプローチについて語っているところだ。
温泉で休んでいる場合ではない。
従い、このまま岬への行程のご紹介を続けたい。
「蒲生田トンネル」というのがあるので、それを抜ける。
よくみるとトンネル左側のプレートに2005年10月から開通された旨の記載がある。
丘を1つブチ抜く、とても便利なトンネルである。
このトンネルが存在しなかった、2005年9月以前は結構なレベルの地獄だと感じた。
少なくとも僕は。
これについては、最後にご紹介したい。
トンネルを抜けると、田畑が広がる。
不安なくらいにスッキリしている。
「これ、岬の先端に向かっているんだよね?なんで平野部が出てくるの?」って思うくらい、今までのアップダウンの悪路から様変わりする。
ストレスフリーな農道。
特に標識もないが、テキトーに走れば岬の近くまで行ける。
行けなくっても、なんとか修正してどうにかなるだろう。
…そんな思いがする。
そのくらい、心に余裕が生まれる。
HUMMER_H3でも余裕。
写真の右端に、蒲生田の集落が見えてきた。
最後の200mほどのストレートだ。
この写真を見て「うお、狭い」と思ったあなた。
安心してほしい。これは少々過去のものだ。
2010年くらいだっただろうか?
綺麗に整備されて上記のようになった。
白い部分の幅を広げてくれたのだ。
ありがたい。HUMMER_H3でも通れる。…擦れ違いはできないけど。
逆に、昔はグレーの部分の幅しかなかったのだ。
2つ前の写真は日本3周目のものであるが、日本2周目のときなんかは、この幅に加えて両側の草木が異様に迫り出していた。
当時はステップワゴンに乗っていたのだが、車の両側を草木にこすりつけながら走った記憶がある。
これで対向車が来たら、もう泣くしかない。
はい、到着した。肩が凝った。
柵の向こうは「蒲生田大池」。散策しようと思ったことがあるが、蚊が多かったりして断念している。
「とりあえずズームして写しておけばいいだろ」とか、雑なことを考えたりもする。
でも、近年整備が進んでいる。
2017年の秋は上記のような感じになっている。
今後さらに綺麗になるかもしれない。
奥に見れているのは、バイオトイレである。
これも、ここ10年くらいのもの。すごく綺麗で便利。
2017年訪問時には、横に井戸があった。
試しにキコキコやったらちゃんと水が出た!
ここって地下水が豊富なのだね!
では、そろそろ岬の先端を目指そうか。
四国最東端の灯台へ
駐車場の奥、わかりづらいが灯台へと続く海沿いの歩道がある。
灯台までは徒歩10分ちょいといったところかな?
あ、このオブジェ初めて見た。
前回訪問時になかったヤツだ。アゲハ蝶っぽい、デザイン。
奥に見えている鋼鉄のゲートを通過し、海岸に出る。
グニョっとした感じのオブジェが現れた。
2011年に設置された、「波の詩(うた)」というものだ。
見る角度を調整すれば、真ん中の穴がハート型になる。
恋人ウケを狙い、「恋人の聖地」になるよう、蒲生田岬は2011年に本格的に観光地化に着手した。
僕は当時それを聞き、ちょっと唖然とした。
マジ?
突端好きなマニアの中のマニアしか来なかった、狭路の果てのこの岬。
恋人来ます??
2011年の観光地化施策において、非常に喜ばしいニュースもあった。
それがこれ。
「四国最東端」を示す碑が設置されたことだ。
今までは、四国最東端と記載されているものが、無いわけではないけど、ほぼ皆無であった。
だからこれは、突端マニアにとっては嬉しかったと思う。
だけどね…。
泣けるくらい小さい。
なんでそんな切ないくらいの大きさで、道端にチョコンと置いてしまったのか…。
突端マニア待望の碑なのに、一緒に記念撮影することすら困難だ。
…ま、上に座ればいっか。
こんな感じでの記念撮影なら、できた。
参考までに、ハートのオブジェと四国最東端の碑がなかった時代の、同じアングルからの写真を掲載しておこう。
そして、灯台はこの歩道の奥へと入っていく。
さぁ、世界は開けた。
目の前の丘の頂上に聳えているのが、四国最東端の蒲生田岬灯台だ。
目の前は荒涼とした風景。
海も荒々しい。
灯台へと続く階段は、なかなかの傾斜である。
心臓破りの階段。
一度、デートっぽい人々を発見した回もあって驚いた。
恋人の聖地となる前の、恋人たちのデート現場。
2人で試練を乗り越えてほしい。
階段の途中にて、来た道を振り返る。
左奥に見えている砂浜は、アオウミガメが産卵に来るのだよ。
貴重な砂浜。
ゼーゼー言いながら上った先に、灯台。
灯台のライトは固定されていて、一方位しか照らせない。
1.2km先にある「シリカ碆」を照らしているのだそうだ。
四角い窓の、独特の形状の灯台。
これがインパクトあり、記憶にしっかりと残る。
あの窓からコンニチハーしてみたい。
後ろからのショット。
この2枚は、改修工事中を撮影したものである。
四国最東端の碑がなかったころは、これを撮影して最東端に来た証明としたりしていた。
まぁこの説明板も、10数年以上前にはなかったような気がするんだけどね。
だからホント、以前はこれだけ苦労してきても灯台しかなかった。
だが、そこにロマンを求めるのが、突端マニア。
灯台のさらに先へ…。
うわー、きれいだな、海!!
向こうには巨大なカメラを設置した人たちがいる。
海と全然違う方向を向いているし、会話と動きから察するに、バードウォッチングの人だな。
そういえば、周囲を鳥が飛んでいる。
先ほどの駐車場の前にあった蒲生田大池は、渡り鳥も来るらしい。
それを待っている人たちなのだろうか?
いつ来ても、ワイルドでダイナミックな光景。
そしていつも強風である。
瀬戸内海と太平洋を隔てているのが、この蒲生田岬。
僕は今、瀬戸内海の南端にいるぞ。
吸い込まれるような海。目がくらむような海。
ここまで大変だったけどさ、この絶景を見れてよかったよ。
観光客はまず訪れない、秘境の岬。
四国最東端、蒲生田岬。
四国最東端の温泉
さて、先ほどスルーしてしまった四国最東端の温泉である、「かもだ岬温泉保養センター」をご紹介しよう。
狭路の果てにある温泉。
なかなかすごいところに造ったものだと思う。
入ってみたいと思ったことはあるが、「温泉にゆっくり浸かっているうちに日が暮れたら、帰りの狭路はマジでヤバいぞ」と避けていたりもした。
あぁでも関係ないけど、温泉施設を見上げながら自炊をしたことならある。
日本4周目くらいまで、僕は結構車中自炊をしていた。
朝ごはんと夜ご飯 は自分で作ってコスト削減する。
お昼ご飯だけ地元のB級グルメとか食べる。
はい、このときはトーストと目玉焼きにした。つまりラピュタパンか。
見た目が悪くてすまない。
こんなパズーでは、シータもついてこないだろうよ。
でも、コンロでトースト作るのって至難の業だからね。
僕は言い訳の多いパズーだからね。
一度だけ、ここで温泉に入ったことがある。
…それにしても立派な施設だ。
これだけの設備を作るための建築資材や工事のための重機が、あの狭路を通ってここまで来たのだろう。あっぱれ。
僕が立ち寄った時は、「船瀬温泉保養センター」っていう名前だったんだ。
2011年にリニューアルしてかもだ岬温泉保養センターになっている。
メッチャ綺麗だし、いいお湯だった。
なんだかお客さんは少なかった。
ここまで来るのが大変だからかな?午前中だったからかな?
あの時代、牙を剥いた極狭路
前半で、「蒲生田トンネルができてずいぶん楽になった」と書いた。
2005年10月にトンネルが出来、本当に便利になった。
実は僕は開通1ヶ月前、2005年9月にも蒲生田岬を訪れている。
そのときのルートをまずはイメージしてほしい。
僕はそのとき、旧道を走ったのだ。
これが、最初で最後となる旧道を走った記録だ。
2020年現在はもう、旧道は使用されていない。
ヤバいんだ、これが。
これだから。
かもだ岬温泉の前から分岐する旧道。
その後も毎回ちょこっと覗いているが、地獄を覗いたような気分になる。
これは世間一般では少なくとも「擦れ違いも想定した車道」ではなく、「歩道」である。恐ろしい。
Googleのストリートビューから、1枚だけ画像を引っ張ってみよう。
ここをワンボックスカーで進み、対向車が来ることを想像したら、鳥肌立っちゃいますよね。
あの時の僕はまだ未熟な旅人だった。
そんな僕が、かつてここをステップワゴンで1人で往復した。夕暮れに。
その貴重な写真を追加公開したい。
*-*-*-*-*-*-*-
温泉までの行程が天国に思えるほどの、狭さと勾配。
これまでも「ひどい道だな」と思ったが、そこから先はそういうレベルじゃなかった。
道は荒れ果てていてほとんどダートであった。
あまりの急勾配と急カーブの連続に、時速20㎞がせいぜいであった。
年季の入った愛車のステップワゴンは、バキバキと音を立てて進んでいる。
なんとか峠を越えて蒲生田の集落へと入る。
左側には防波堤があり、その向こうがウミガメ産卵地の砂浜のようだ。
かろうじて車1台を停められるスペースを発見。
『ようこそ・四国の最東端 蒲生田岬』
なんとかかんとか、ここまで来れた…。
岬には「四国最東端」と書かれた碑などは存在しないと聞いている。
おそらくここが、写真でそれを示せる唯一のポイントだろう。
記念撮影をした。
この先、駐車場の直前のストレートが登場した。
あまりの狭さと、左右の草木の旺盛な繁殖力のせいで、愛車の左右をこすりながら走った。
道もボッコボコで、ステップワゴンは飛び跳ねていた。
すーーーーっごい風!!
海が泡立っていて、全面白い。
何もない砂利の空き地のような駐車場から、荒れ果てた海岸を灯台に向かって歩く。
これ、なんていう修行だろうか。
ゼーゼー言いながら灯台直下まで登った。
そこは、今まで経験したことがないほどの強い風だった。
灯台に取り付けられた階段は、立入禁止ではないようだ。
では登ってみよう。
風圧で顔が歪んだ。呼吸困難になった。
「マイケルジャクソン」みたいに斜めに立っても、強風で倒れずにすんだ。
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…そんな岬だ。
正直大変だった。
そうまでして攻略した四国最東端。
胸に大切にしまっている、エキサイティングな思い出。輝かしい歴史。
きっと今後はさらに観光地化が進み、道も綺麗になるのだろう。
それはそれでいいことだ。
新時代の蒲生田岬、これからの発展を楽しみにしたい。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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