あなたは「機動戦士ガンダム」をご存じか。
実は僕は1話たりとも見たことがなく、ガンダムについて何かを語るだけの資格を持った人間ではない。
しかし、そんな僕でもガンダムと言われれば、あのカッコいいデザインが脳内に思い浮かぶし、なんならおぼろげながらテーマ曲も脳内再生できるし、「親父にもぶたれたことないのに!」って言いたいけれども幼少期からボコボコだし。
つまり、おそらくは誰もがどこかでその情報に接したことのある、まさに国民的ロボットなのではないかな?
今回はそんな僕が、実際にそのガンダムに邂逅した話をしよう。
さぁさぁ、ワクワクしてきたね。
永遠の男子よ(女子も)、心躍れ!
これが機動戦士ガンダムだッ!!
…
…
へたれ。
へたれガンダム事件
これが、「へたれガンダム」である。
では、いきなりだがへたれガンダムとはなんなのかをご説明したい。
へたれガンダムは2020年初夏、以下に関するニュースによって全国的に知られることになった。
ザッと説明すると…。
福島の某所にある、マニアのみ知るB級スポットのへたれガンダム。
しかし5月に誰かがガンダムの持っているビームライフルを盗んでしまったのだ。
かわいそう!ライフル返せ!
…そんな感じの、悲哀に満ちた物語。
コロナ禍で犯人の心も荒んでいたのだろうか?
全国ニュースで度々流れ、Webニュースでも目にした本件だが、2020年10月現在も、元のライフルは 返却されず、行方不明のままだ。
ニュースでは、本来持っているはずのビームライフルを取り上げられ、手持ち無沙汰になってしまったへたれガンダムが取り上げられていた。
より一層、へたれてしまったように感じ、胸が締め付けられた。
2020年の夏のコロナ禍が、どん底から少しだけ好転し、県境を跨ぐ移動が許可されることとなった。
…行こう。
へたれガンダムに会いに。
なんだろう?
へたれガンダムを助けたいわけでもないし、勇気づけられたいわけでもない。
ただただ、会いたいんだ。
コロナ禍で疲れた僕は、愛車に乗り込んでアクセルを踏んだ。
へたれガンダムとの対面
…雨だ。
くっそー。
真夏の快晴の空に浮かぶ入道雲とかを追いかけるドライブをしたかった。
なのに、なんだこのドロドロの天候は。
永遠と思われる梅雨がようやく明け、ようやくドライブができるかと思ったらこれだよ。
ある意味、へたれ日和なのかもしれないが。
福島市郊外の農村エリアを進む。
そして、出会う。
…なんだこのマヌケな写真の構図は。
愛車のパオとへたれガンダム、どちらもユルユルに力が抜け、しかも天気もこれだから、なんだかフニャフニャした写真になった。
こんな畑の前の空き地に、彼は立っている。
微妙に猫背だ。
シャキッと感がゼロである。
「あぁ、オフィス内での僕って第三者目線でこんな感じなのだなー」と、また1つ賢くなったコロナの夏。
うわー、ガニ股だ。すごいガニ股だ。
ガニ股で猫背。
子供が憧れる要素を綺麗に取り除いた、そのフォルム。
見上げるような構図で撮影すれば、少しはりりしくなるだろうか?
…おっ、ちょっといい線を行っているのでは??
こんな感じに、上半身だけの構図にして、画像サイズを小さくして…。
そんでビール飲んで酔っ払ったところでメガネ外してから薄眼で見れば、3回に1回くらいは本家と勘違いするかもしれないな。
顔も、なーんか違うんだよなー。
絶妙な違和感。絶妙な頼りなさ。作画崩壊。
お面を装着しているのが、もう近所のあのおっちゃんだってわかっちゃうような、そんな感じ。
かっこよくはないけど、にくめない。
世界が平和になって、15年くらいやることなくってゴロゴロダラダラしてゆるんじゃったガンダム。
その分、近所の子供と遊ぶ時間を充分に取れたガンダム。
バックショット。
このランドセルみたいのは何?
ゴメン、原作もアニメも知らないから、うまいコメントはできないんだ。
ただ、このパーツだけ塗りが異様に綺麗。
貴重品とか入っているに違いない。無知なりに、そう結論付けた。
へたれガンダムは完全武装だ
ここまで掲載してきた写真から、あなたもお気付きかもしれない。
「へたれガンダム。ライフル持っているぞ。盗まれてないぞ。」と。
確かに彼は、ライフルを所持している。
しかしこれは、もともと持っていた彼の愛用の銃ではない。
盗難後に寄贈されたものなのだ。
丸腰になってしまったその姿が哀愁を誘い、いてもたってもいられなくなった人が、彼に武器を届けたのだ。
ある親子は、へたれガンダムのために木製のライフルを自作して届けた。
また、ある男性は奇をてらったものを届けたいと考え、鎖付きの鉄球を自作した。
ペットボトルを連結させてバズーカ砲を作った人もいた。
工業高校では、盗まれる前の写真を基に、精密な設計の元、ほとんどかつてのままのビームライフルを再現した。
既成品を届けた人も何人かいる。
確かに銃は、手作りよりも既製品の方が、メーカー保証もあるだろうし安全に扱えそうな気もわかる。
区長は次々届く武器のため、近所の人に武器ラックを作るよう依頼したらしい。
こんな物騒なオーダーしてくる区長、なかなかいないぞきっと。
よく見ると、盾の下からも錨のようなものが飛び出ている。
これも独立した武器か?って思ったけど、接続されている鎖を経由し、さっきの鉄球につながっていた。
なるほど、全部合わせて1つの武器であったか。
とりあえず、すごい武装をしていることが理解できた。
絶対殺すマンだ、これ。
普段はのほほんとしているけど、キレると何してくるかわからないような、クラスに1人はいるタイプのヤツなのかもしれない。
もし元のビームライフルを盗んだ人がここに再び来ようものなら、この絶殺マンへたれガンダムは、全火力で攻撃をしかけてくるかもしれない。
…いや、前言撤回。
へたれガンダムはそんなことする人じゃない。
きっと平和的な解決ができるはず。
そんな彼だからこそ、みんなに慕われた。
そんな彼だからこそ、このコロナの混乱の中でも失った武器を届けたい。
※ 以前読んだ「のぼうの城」を彷彿とさせた。
そう思われる人徳。
ロボットなのに人徳。
なんという深い話よ。
へたれガンダム誕生秘話
へたれガンダムの生みの親は、「佐々木忠次さん」というアマチュア鉄作家の方だそうだ。
佐々木忠次さんは引退後、溶接技術を学ぶ。
そんで毎日工房にこもり、いろんな作品を生み出したのだそうだ。
2007年には、地域活性化のために鉄製の恐竜を何体か作り、平石地区のこの場所に、「平石恐竜の里」と名付けて設置をした。
だけどもすぐサビた。うん、鉄だから。
わずか3年の命であった。
でも、その場所に何もないのも寂しい。
地域の子供たちに親しめるような、何かが欲しい。
そんなことから次に佐々木忠次さんが作ったのが、へたれガンダムだ。
高さ2mの、なんだかヘンテコなガンダムが、2010年にこの地に爆誕した。
ヘンテコだけど、地域の人に愛された。
しかし、その翌年の2011年の6月に、佐々木忠次さんは亡くなっている。
地域を愛し、キャラクターを愛し、子供のためにと造られた、遺作のへたれガンダム。
そのビームライフルが心無い人に盗まれたのだから、残念な気持ちだよな。
だけど、絆があった。
コロナ禍でみんながロクに動けず、物理的に出会えない中でも、絆は確かにつながっていた。
だからこその、この大量の重火器。
へたれガンダムは、ライフルがあろうと丸腰だろうと、「やさい100えん」の無人販売所の前に立っている。そこであなたが来るのを待っている。
あなたもぜひ会いに行ってほしい。
彼が愛される理由が、よりわかるかもしれないから。
雨は止み、周囲が明るくなってきた。
さぁ、次のスポットへ行こうか。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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