我が国、日本を代表するポエマー「松尾芭蕉氏」が「最上川」を船で下る際、想像以上に川の流れがワイルドで、むしろ「スプラッシュマウンテン」のクライマックスみたいな感じだったそうで、その驚きに対し5・7・5の呼吸法で悲鳴を上げたのが、これだ。
そんな最上川の、河口からさかのぼること28㎞地点。
芭蕉の句の「さみだれ」を冠した大掛かりな堰(せき)が存在する。
※堰:堰堤とほぼ同じ意味。わかりやすく言うならダム。
芭蕉もビビる天下の最上川を堰き止めるその施設は、いったいどのようなものなのだろうか…!?
日本最大級のラバーダム
梅雨の終盤の晴れ渡ったある日、僕はそこを目指した。
さぁ、見えてきたぞ、さみだれ大堰だ。
遠目から見ると、完全にただの橋だな…。
これをパッと見て「ダムでしょ」・「堰でしょ」と言える人は少ないかもしれない。
しかし、そんなこととは関係なしに、この最上川の雄大な風景に心を打たれる。
緑に囲まれた大河。
なんか「日本の夏!」って感じ。
このような季節にこういうところをドライブできることに、至上の喜びを感じる。
もう少し近づいてみた。
橋の下で、川に高低差ができているのがおわかりだろうか?
そう、ここで水量を調整しているの。この下が堰なの。
最上川の下流って、「庄内平野」っていうダダッ広い土地があり、米作りが盛んなのだ。
そこに安定した水を供給することで、おいしいササニシキだとかひとめぼれとかが、僕らの食卓にのぼるのだ。
ありがたいダム。
橋の上から下を見下ろした。
結構ワイルドに泡立っている。
ダム直下はやっぱキケンだ。
かつての芭蕉と同じくらいビビった。
遠くを見ると、こんなにものどか。
心が満たされるような眺め。
コロナ禍でずっと外出を控えていたので、この日差しと自然が身に染みる。
「生きているー!」って感じる。
橋の下に回り込んでみた。
ダムの高低差がよくわかるようになった。
これ、ラバーダムっていうらしい。しかも国内最大規模の。
どんなダムかっていうと、ゴム製の巨大なチューブを川の中に仕込んでいる。
ゴムがしぼんでいれば、川は普通に流れる。
ゴムに空気を送り込んで膨張させると、川の流れを大幅に堰き止める。
こんな絵でイメージできるだろうか?
川を輪切りにして、真横から見た図だ。
今はたぶんゴムが膨らんでいるから、橋の下が軽く滝みたいになっているのだ。
「ゴムってどんななの?」って思うあなたのために、敷地内にはサンプルもあるぞ。
ゴムチューブを輪切りにすると、上記のような感じだ。
これは膨張した状態での輪切りであろう。
MAXに膨張した場合、高さは2.7mにもなるそうだ。
これがちょうど、川面の高さと同じくらいになる。
これは日本5周目を走っている頃、ゴムが全然膨らんでいないシーンを撮影したものだ。
橋の下がすごく穏やかなのかおわかりいただけると思う。
こうやって季節に応じ、水量をコントロールしているのだな。
船通しと魚道
このダムには、面白い抜け道がある。
通常はダムを作ってしまうと、船も魚もその上流側と下流側を行き来できなくなってしまう。
試しにダム界のカリスマ、「黒部ダム」の画像を引っ張ってきた。
こんなところ、船も魚も通行できないよな。
しかしこのダムは可能なのだ。
船通し
まずは船側で見てみよう。
仮に上流から下流に向かって、芭蕉さながら下っていると仮定しよう。
さみだれ大堰が見えてきたぞ…!
堰あり、航行不可、右へ ⇒
橋にはこんな横断幕がかかっている。
その通り、右へと舵を切ってみよう。
船通し閘門(こうもん)!!
かっこいい、船用のゲートが右側にある!
結構狭そうでテクニックがいりそうだけど、ここのゲートを開けてもらうことで、船が通行できるようになっているのだ。
正面近くからも撮影してみた。
木々がジャマでいい写真が撮れなくって申し訳ない。
もっと接近して、船のルートを覗き込んでみよう。
はい、すごーい!
隣ではザブザブと滝のように水が流れ落ちている中、船通しはフラットに橋の下を通行できるようになっている。
僕としては右側のほうが「カリブの海賊」のちょっとした落下ゾーンのようで楽しめそうな気もするが、ここを通る船はそんな楽しさを求めているわけではないので、キチンと横の船通しを使うのだろうな。
魚道
実は、魚も通れるぞ。
先ほどは船専用の道を紹介したが、次は魚専用の道を紹介する。
それが…これだ。
世にも珍しい、魚専用の水路。
写真の右側に、先ほどの船通しが見える。
さらにその外側、川の端ギリギリに魚用の道が造られている。
上記は日本5周目で撮影した写真である。
川に沿って魚道が伸びているのがわかる。
最上川は、イワナだとかアユだとか、20種類ほどの魚が遡上してくるのだそうだ。
ダムがあっては、それらの魚がまともに遡上できない。
だからこうやって魚道を設けたそうだ。
このスポットには、もう1つ面白い施設がある。
それがあの中にあるんだぜ、フフフ…。
ダムの管理事務所の一角に、「フィッシュギャラリー」というコーナーが設けられている。
ガラス越しに魚道を真横から見れるんだぜ。
そうすると、川を遡上してくる魚が目の前に見れるんだぜ。
しかも無料で。
日本5周目のときには夕方で既に施設が閉まってしまっていたので、日本6周目の今回は見れるといいなーって思いながらやってきたのだ。
…うん、今回も閉まっていた。
サイトによると「月~金曜日 AM 9:00~PM 4:30 (5月~9月は土・日・祝も開放します)」とのことだが、ちょうど今はコロナ禍。
人の集まりやすい土日は閉鎖していたのだ。
残念。
せめてもの償いとして、施設前に掲示してあった説明板の写真を掲載する。
5月から9月は魚の遡上シーズンで、魚が見やすいんだってさ。
僕は実際見れなかったので、あなた自身で見に行ってくれれば幸いと思う。
僕のカタキを取ってくれ。
最上川は、暴れ川
本当に穏やかに晴れ渡った夏の1日であった。
しかし同じ日、九州はとんでもない豪雨となり、「令和2年7月豪雨」と名付けられた甚大な災害となった。
その低気圧は数日後には東北にまで北上し、ここ山形県の最上川エリアにも直撃することとなる。
大蔵村・大石田町・大江町・村上市内の計6箇所にて最上川は氾濫し、周囲の住宅を飲みこんだ。
僕が訪問したほんの数日後の惨事であり、牙を剥いた最上川と周辺の住宅の変わり果てた様子にショックを受けた。
幸いにして最上川さみだれ大堰付近では目立った被害はなかったようだが、最上川は古来から有名な暴れ川である。
自然の力は恐ろしい。
自然と共存し、自然をうまくコントロールしていければよいのだが。
むしろ逆効果になってしまった事例も多いだろう。
なかなか人間は罪深い。
しかし、まずは知ること。
そして考えること。
1人1人ができることは限られているけど、いろんな視点から日本を見ていきたいと思う。
…嵐の前の静けさ。
本当に、青空の綺麗な1日。
僕は最上川をさかのぼり、次のスポットへとアクセルを踏む。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報