週末大冒険

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ちょっと出かけてみないか。忘れかけていた、ワクワクを探しに。

No:033【兵庫県】崩れゆく巨大観音!かつて世界最大だった仏像は、破滅への道を辿る…!

世界平和大観音像」。

そのビッグ過ぎるウィルとは裏腹に、その観音像は地元にめっさ迷惑をかけている

 

「崩れそうで危険だ!」・「景観を損ねる!」と、飛び交うシュプレヒコールの嵐。

ついに2020年4月1日、財務省近畿財務局がこの像の取り壊しを発表した。

 

…なんで、こんなことになっちまったのかな?

とりあえず現地レポートと共に考察していきたい。

 

 

聳える巨大廃墟観音

 

今回の目的、世界平和大観音像は、「淡路島」にある。

島の東海岸の海沿いを南下していると…。

 

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平和観音1

はい、巨大建造物恐怖症の人がゲロ吐きそうな登場シーンだ。

朝一で僕も眠かったのだが、睡魔も消し飛んだ。

 

 

巨人だ。

巨人が島を歩いておる。

 

 

あの観音は、かつては観光施設だったものの、閉鎖後長らく廃墟となっている。

世にも珍しい、観音像の廃墟だ。

 

敷地全体が閉鎖されているので、駐車場もない。

とりあえず、観音像と一緒に記念撮影をできる位置を見つけ、愛車のパオを駐車させた。

 

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平和観音2

大きさ、この写真じゃわかんないよなー…。

あのお方、台座含めて身長100mもあるんだぜ。

 

  • 日本最大の「牛久大仏」は、台座20m・像高100mの、全高120m
  • 第2位は、市街地の人々を圧倒する「仙台観音」、同じく台座込みで全高100m
  • 第3位は、「北海道大観音」で全高88m

 

この世界平和大観音は、上記に続く第4位だ。

世界平和大観音の建立当時(1983年)は、1~3位の像は存在していなかった。

そして、国外にもそんなスケールの像は存在してなかった。

 

平和観音が正真正銘の世界最大の像だったのだ。

 

ちなみに僕は、これで国内の第1位~4位をすべて拝観したことになる。

(これでビッグな男になれるかな?)

 

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平和観音3

…よーく見てみると、なんだかいろいろと違和感がある。

 全体の造りとしては、チープ。

 

小学生に「何も見ずに仏像を描いてみなさい」と言って描かせた結果を、3Dにしてデカデカと公開しちゃった感じ。

当の小学生としては、相当に恥ずかしい公開処刑

 

…っていう妄想をしてしまうレベルの、絵心の低さだ。

 

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平和観音4

まずは頭にシャンプーハット

いきなりパワフルなアイテムが降臨している。

 

「じゃあ頭に何が乗っているのが正解なのか」と言われても、パッとは回答できないが、これは抱いてもいい違和感だと思う。

シャンプーハットなのか河童なのか、はたまたヘッドバンドなのかわからないが、神々しさはあまり感じない。

逆に言えば、気さくに話しかけられそうなタイプの観音だ。

 

そして首元。

これはかつての展望台であったらしい。

 

「じゃあ今は?」と言われれば、まぁムチ打ち用のギプスでしょう。

別名「ムチ打ち観音」と呼ばれているそうだし。

気さくに「おたく、首、やっちゃったんすか?」と話しかけられそうなタイプの観音だ。

 

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平和観音5

さぁ、胴体もいろいろ賑やか なんだぜー。

 

首元には、かわいい襟がついているぞ。

まさかの洋服?ポロシャツ?

 

そんで胸部には縦と斜めに溝が彫られているけど、これは如来や菩薩の服装である袈裟をイメージしたものなのだろうか?

すごく、なんとなくデザインした感が強い。

 

僕はむしろこれを見て、軍服の飾緒(しょくちょ)が思い浮かんだね。

首元のデザインも加味すると、こっちのほうが近い。

 

ja.wikipedia.org

 

あと、右手の手首からヒジにかけてのラインが変過ぎる。

肉をゴッソリ持っていかれている。

 

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平和観音6

あー、もうどっかのヤブにでも引っかけたのか、服に穴が開いているし、前のファスナーも全部閉じていないし。

ワンパクな小学生男子か。

 

ちなみに穴は、廃墟と化して劣化し、剥がれ落ちたものだ。

相当な標高から落下しているから、本当にかなり危険な状態。

2020年現在は、さらにここの斜め上の部分も剥離している。

 

…とまぁ、なかなかにスパイシーなデザインの観音だ。
なぜなら、ちゃんとした宗教法人施設ではなく、お金持ちの人が 観光施設として作ってしまったからだ。

 

それにしても、もうちょっとなんとかなったんじゃないかと思うのだが…。

 

 

そうそう、この観音像、真っ白じゃないか。

僕が見たまんまのイメージで、これに着色したら、いったいどうなるのだろう?

 

試してみた。

 

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平和観音7

ま、こんな感じでしょうね。

軍服だ。(そしてファスナーは開いている)

 

もしかしたら制作者の意図とは違うかもしれないけど、恐竜にしろ・古代の仏像にしろ、色の失われた世界に現代人が想像で着色しているのは一緒。

 

僕が考古学者であり、発掘した石仏がこれなのであれば、僕は想像を巡らせた上、きっとこういう着色をする。 

もし違っていたら、そのときは「ゴメン」と謝る。

 

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平和観音8

しかし、どうだろうか。

少なくとも、あなたへの洗脳は成功したのではなかろうか?

 

もうあなたは上の写真の真っ白なキャンバスに、軍服しかイメージできなくなったのではなかろうか?

 

うん、実は僕もだ。 困った。

 

 

敷地の全景と遠景

 

少し引いて、敷地全体を見ていこう。 

 

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平和観音9

写真に写っている部分、全てが廃墟である。

 

まずは左手前の赤い門。

石柱には「豊清山平和観音寺」と書かれている。

前述のように、宗教法人ではなかったんだけどね…。

 

ここはかつては券売所だったようだ。

今は半分雑草に埋もれている。

 

そして写真の右側にある五重の塔…ではなく、十重の塔か。

これも廃墟であり、相当に朽ちてきている。

 

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平和観音10

塔の高さは40m。

観音の半分にも満たないが、それでも圧巻である。

 

ただ、ウワサによると各階が床で仕切られているわけではなく、吹き抜け構造のハリボテだったらしい。

 

そして、廃墟化してからはボロボロと崩れ、落下物の危険もあるため、ご覧のようにスッポリとネットで覆われている。

 

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平和観音11

最上階の屋根とか、鉄骨剥き出しだしね。

怖い怖い。

 

他にも、敷地内にはSLや「自由の女神」のレプリカ、五百羅漢像などなど、ごった煮のように展示されていたらしい。

うーん…、観光地のこじらせ方のお手本のようだ。

 

 

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平和観音12

少し離れたところから。

ここは、「御井の清水」という名水の湧き出る丘の上。

給水するためにやってきた。

 

観音像の後ろ姿が見えている。

よく見ると、ムチ打ち用ギプスの背面に当たる部分に、いくつか穴が開いている。

展望台の背面スペースだったのだろう。

 

観音像は丘の上に立っている。

あの高さからガレキが剥がれて落ちてきたら、下の集落の人は、たまったもんじゃないよな…。

 

そんなことを考えながら水を汲んだ。

 

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平和観音13

…湧き水、普通の蛇口から出てくるスタイルで、あんまりありがたみを感じなかったけど。

でも、あの廃墟観音よりかは、遥かにありがたい存在。

(フォローしとくけど、おいしかったよ、水)

 

 

平和観音破滅までの経緯

 

この観音像は、1983年に完成したらしい。

不動産業で財を成した「奥内豊吉氏」が、故郷に貢献する意味合いで建てたのだそうだ。

 

当時は、各階が以下のようにコンセプトを持って営業していたらしい。

 

  • 地階: 奥内さんの収集したクラシックカーを展示。
  • 1階: 四国八十八箇所の砂を住むことで、八十八箇所巡りと同じ功徳を得られるコーナー。
  • 2階: 世界の名画の複製。しかし、コンビニでコピーしたようなレベルのものも多かったらしい。
  • 3階: 奥内さんの趣味の時計や骨董品などが展示されていたが、スッカスカで埃をかぶっていたそうだ。
  • 4階: 展望レストランや温泉、土産物売り場。レストランは早々に採算取れずにクローズしたそうだ。
  • 5階: 奥内さんが収集した鎧兜などが展示されていたが、スッカスカの空間。
  • 10階: ムチ打ち展望台。強風の日はグラグラ揺れる。

 

最初から、観光ガイドや観光ツアー業界からは距離を置かれており、一部マニアのみが訪問するようなスポットだったらしい。

あぁ。僕もこの時代に訪問したかった。

 

*-*-*-*-*-

 

1988年、観音像建立の5年後に奥内さんが亡くなる。

そして、その奥さんが運営を引き継ぐ。

 

2006年、なんとか運営をしてきた奥さんも亡くなる。

これと共に閉館、廃墟となる

 

競売にもかけられたが、既にこの時点でボロボロで、もらい手がつかなかったらしい。

莫大な費用が掛かるため、安易に解体すらできない。

地元では「迷惑観音」と呼ばれる。

 

2014年・2018年、台風などで外壁が剥がれて落下する。いよいよ危険な状態。

 

2020年2月、侵入した人が展望台から飛び降り自殺。

 

2020年3月31日、 相続人がいないので、民法の規定で全部国の所有物となる。

 

2020年4月1日、国の所有物となったことで、解体撤去できるようになった。早速財務省近畿財務局が解体の趣旨を発表。

 

2020年度内、山門と十重の塔を解体予定。

 

2021年度から2年以内で、平和観音を解体予定。

 

*-*-*-*-*-

 

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平和観音というネーミングに反し、周囲に混乱を与えた観音の歴史が、もうすぐ終焉を迎える。

 

愛されなかった観音の末路は、悲しい。

世の中には、手作りのチープな像でも、みんなに愛されるものがたくさんあるのに。

その違いはいったいなんだったのだろう?

 

地元に歓迎されなかったこと?

膨大なメンテナンスコストがかかるのに、そのコストを回収できるような運営でなかったこと?

 

 

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水を汲み終わった後、御井の清水の丘の上から最後に観音像を振り返り、そして愛車のパオに乗り込む。

 

たぶんだけど、もう僕があの観音像を見る機会はないだろう。

 

平和観音、フォーエバー。

 

 

以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。

 

 

住所・スポット情報

 

  • 名称: 世界平和大観音像
  • 住所: 兵庫県淡路市釜口2006
  • 料金: なし(閉鎖されているため)
  • 駐車場: なし(閉鎖されているため)
  • 時間: 特になし(閉鎖されているため)