「懸造り(かけづくり)のお堂が好きだ」 と言って、どのくらいの方にご理解いただけるかは不明だが。
「懸造りってなに?」という方は、京都の「清水の舞台」を想像してほしい。
あれがきっと、日本一有名な懸造りだ。
それでもピンと来ないあなた。
もう、検索エンジンで「張り出しウッドデッキ」で検索しちゃえ。
令和スタイルの懸造りがモリモリご覧いただけるであろう。
今回は、日本5周目当時の僕が福島県で暇つぶしのために訪れた、懸造りのお堂の話しをしたい。
…おっと、暇つぶしとはいえ、あなどるなかれ。
3Dダンジョンレベルでいえば、おそらく全国の懸造りの中でも上位に食い込む逸材だと思うのだ…。
山間部を行く
梅雨明け直後の空が、痛いくらいに眩しい。
田んぼの稲は、深い緑に染まり、真夏の風でそよそよと靡(なび)く。
あなたは、もし福島県内で待ち合わせ予定の旅友が、いきなり「車のバッテリーが上がったから30分遅刻する」と言ってきたら、どうするか。
僕だったら、「じゃあその30分で、暇つぶしに小さな冒険しておくわ」って言う。
こういうときのため、情報のストックはいくつかあるのだ。
今向かっているのは、そんなスポットの1つである「左下り(さくだり)観音堂」。
懸造りのお堂である。
上の写真の道を探すには、ちょっとてこずった。
「どこのわき道に入れば左下り観音堂なのだろうか…?」とキョロキョロしていたのだが、付近には桃を売っている農産物直売所と、工場を示す看板しかなかったのだ。
しょうがないので、直売所の前でノンビリ座っているおばあさんに聞いてみた。
すると、工場のほうを指さしたのだ。
「工場に入りそうになったら左に反れて。そしたらもっと狭くなって道も悪くなるけど、構わず進んで…。」とか、怖いことを言ってた。
うん、おばあさんの言う通りだ。
道は狭いし、荒れてきたし。車体がめっちゃガタガタ言ってますけど?
下のほうに工場がチラリと見えた。
これ、対向車来たら100%擦れ違いできないねぇ。困ったねぇ。
ここが車道の突き当りだ。
駐車場になっているので、愛車のHUMMER_H3はここに置いていく。
ちなみに車体、既にドロドロだけども気にしないでくれ。いろいろワイルドなことばかりやっているのでね…。
激坂を相当登ってきたが、目指すお堂はさらにここから徒歩だそうだ。
木漏れ日かの日射しが眩しい。
最初はこんな爽やかな緑の中をルンルンで登っていた。
しかし、すぐに息も上がって来たし、全身ヒート状態になってきた。
さぁさぁ、日ごろの運動不足のツケが襲い掛かってきたぞ。
5・6分ほど登り坂を歩いただろうか?
いきなりズドンとお堂が姿を現す。
こんなハイキングコースみたいなところに、何の前触れもなく。
左下り観音堂(外観)
崖から張り出すように造られた、懸造りのお堂。
見事だ…。
木造剥き出しの建物って、他の建物にはない魅力がある。
おそらくそれは、剥き出しの木々の経年変化が、長年風雨に耐えてきた、その建物の苦節を物語っているから。
さらに、我々の目で見えるだけの素材で、見える範囲の技術で造られた建物だから。
そんなごまかしようのない説得力が、そこにあると感じた。
懸造りについて、改めてご説明しよう。
懸造りっていうのは、斜面を利用して建てられた建築方法。
斜めの地盤に対し、水平な床を作らないといけないので、必然的に床面の一部が空中に飛び出す。
そこを長い柱で支えるのだ。
なんでこんなアクロバティックな建て方をしているのかというと、観音菩薩が降臨すると言われている聖地、「補陀落(ふだらく)」をモチーフとしているから。
補陀落って結構険しい山だそうで。
そんでもともと日本は山岳信仰の文化もあるし。
だから、「こんな感じでお堂を建てたら補陀落っぽくね?」、「もっと崖ギリギリに建てたら、補陀落レベル100な!」、「スリリングなお堂を建ててバズらせよう」みたいな感じで、過激さを増していったらしい。
当時の人も、やっていることは高所でエクストリームなパフォーマンスをしているYouTuberである、"ルーファー"とかと同系統なのではないか、と言ったらいささか無礼だろうか??
懸造りにはいろんなバリエーションはあるが、鳥取県の「投入堂」なんかは、もう現代の科学で解明できない建築技術で限界にチャレンジしている。
…とまぁ、懸造り界のレジェンドと比べたらまだ穏やかかもしれないが、左下り観音堂を改めて見てみよう。
木造三層懸造り。
お堂が立つ位置は、はるか上空だ。
そして、背面は岩肌と一体化して取り込まれている。
あとでご説明するが、縁側の延長線上にあたる岩肌に、洞窟のような穴が開いているのがわかるだろうか?
このお堂は、それが特徴の1つである。
説明版を読んでみよう。
このお堂は、福島県の指定文化財であり、会津札所二十一番にあたる。
修験の際に籠るお堂として建てられたようだ。
1358年に大修理をしたという記録があるから、建てられたのはそれよりも前。
西暦830年に建てられたという説もある。古ーい。
入口は、上の写真側の反対側から山の斜面を登る。
3階建ての3階部分が玄関だ。
では、おじゃまします…。
左下り観音堂(内観)
まずは、リアルなポスターが出てきてビビるよね。
これ、ホンモノではないよ。ポスターの平面の写真だよ。
唐突なトリックアート的ポスターの登場で、先制パンチ食らった。
高さや構造でビビる覚悟はしていたが、こんなところで先制点を取られるとは、予期していなかった。
お堂内。
正面の扉は固く閉ざされている。
ここは「無頸(くびなし)観音」の伝説もあり、それが安置されていると聞いている。
あの扉の向こうが、その首の無い観音像なのか?
ややホラー。
さて、回廊に回ろう。
回廊がそのまま洞窟になってるー!!
「廊下を歩いてたら、いつのまにか洞窟にいた」なんて体験、ここ以外ではちょっとできないぞ。
はい、完全にダンジョンだ。
モンスターとか、出現しそうな気配だ。
ちなみに、左下にはお地蔵さん(?)のような岩が無数にある。
お地蔵さんなのかそうでないのか、マジにわからないレベル。
そのあやふや感が、どうにも心を不安にさせる。なんだか怖い。
さて、このまま洞窟を歩いて進むとどうなるか、と申し上げますと…。
落ちます。
こういうね、落とし穴とか唐突にあるところも、ダンジョンだよね。ドラクエっぽいよね。
…とか言っている場合じゃないよ。
残念な結末にならぬよう、本当に気を付けよう。
上から見ると、こんな造りだ。
本当になぜ、回廊があそこだけ途切れてしまったのか。
グルグルと回遊したかったのに。
空中を隔てて、縁側の続きは2m先。
ご丁寧にも、洞窟側の手すりは存在しない。
「どうぞ、盛大にジャンプする覚悟があるなら、続きを歩けますよ」
と誘っているかのようだ。
反対側から洞窟側を見ると、こうなる。
「おっ!YAMA!!オマエまさか飛んだのか!?」ってお思いかもしれないが、全然飛ばなかったよ。
グルリと回って反対側に来ただけ。
ルーファーじゃないし。チキン野郎だし。
ここいらの構造、以下に引用する動画がすごいわかりやすい。
かつ、以下にスリリングかわかるので、ちょっと再生してみて。
左下り観音堂(会津美里町)
— fuji (@fuji_3DCG) 2020年8月3日
県指定重要文化財
Check out Sakudari Kannon(Buddhist temple)japan by @fuji_3DCG in #3D, #VR or #AR
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回廊からの眺めは、すこぶる良かった。
「磐梯山」?
のどかな会津の田園風景が眼下に広がっている。
ノスタルジックな夏休みを彷彿とさせるような、なんともいえない満足感。
夏っていいなー。
左下り観音堂(下りルート)
そして、下りルートだ。
…あまり穏やかではないぞ。
お堂の真下に入った。
そこを縫うように階段が設置されている。
つまり、上の絵でいうところの、お堂を支える足部分にいる。
下りルートはそこなのだ。
こんなところを歩けるのって、珍しいな。
僕もいくつか懸造りを見てきたが、これは初体験。
足元、穴が開いているよ。
2階から1階、見えるよ。
これ、いいの?
これ、正解??
2階。
なんか、床板がガチャガチャしてない??
このズレっぷりを見ると、心がザワつく。
ゆっくりと踏みしめても、床板はガタガタギシギシいうし。
山間部で、管理人さんもいないスポット。
それなりに劣化してきているのか?安全性は大丈夫なのか??
2階から1階を見る。
建築開始したばかりの住宅みたいだ。柱しかない。
こんな柱で、長年頭上のお堂を支えている。恐ろしい。
しかし、この立体構造がそそる。3Dのダンジョンだ。
そんなこんなで、無事に地面に降り立った。
土の地面、安心するー!
ではまた、激坂を降りて下界に戻ろう!
30分の暇つぶしはこれでおしまい!
ここからが旅の本番だ!!
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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