その車道は、僕の眼前で天空を指さした。
大空に繋がった車道を見上げ、僕は問うた。
「この道は、我を何処に導かん。」
神はこう答えた。
「汝、此の道を辿り、蒼天を目指せ。その険しき道の果てに、光あり。その光の中で、我は汝を待つ。」
…いや、知らんけど。
とにかく、ちょっと現実離れした光景に呆然としてしまったのは事実。
だってさ、日常であんまし見ない光景だよね、この角度の道。
では今回は、なんで車道が聖剣エクスカリバーみたいに地球にブッ刺さっちまったのか、そこんところを説明しよう。
橋と謎の遮断器
9:56。僕は「手結(てい)港」に1台の水色のレトロカーで登場した。
「時は満ちた」とか、中二病っぽいことを言いそうだったけど、かろうじて飲み込んだ。
この時間を待っていたんだ。すぐそこにある「道の駅やす」で僕は待機していたんだ。そして10時になる直前を待ってここに現れた。
僕はそのまま、港に架かる橋を車でスイーッと通過した。
その橋の直前で撮影した写真が上記だ。
どこかおかしいとは感じないか?普通の橋には無いものが映り込んでいる。
これだ。踏切などにある遮断器だ。
唐突に夕方になったし遮断器がボロくなってしまって申し訳ないが、以前日本5周目を走っていた頃の写真も混ざってしまっているのでご容赦願いたい。
なぜ遮断器が?写真に見える範囲には線路なんて無いのに。
「可動橋注意」。
この踏切が守るのは、線路でも電車でもない。
今通過した可動橋と呼ばれる橋に、車や歩行者が侵入しないよう守るのだ。
そうすることで、橋の下を船が安心して航行できる。
すなわちこれは、船用に設置された踏切である。
ちょっと構造が良くわからないかと思うので、一歩引いた写真を掲載しよう。
僕は橋の反対側で車を降り、小走りでまた踏切の近くへと戻ってきた。
これが全景だ。橋のたもとの、あっちとこっちに遮断器がある。
船は当然、その両方の遮断器の間、つまりは川を通過する。
ただし、橋桁をよく見てほしい。「桁下2.0m」と書いてある。心配性の人や身長2m以上の人、及びその友人知人は、「これでは橋の下を通過するときにぶつかってしまうのでは?」と不安になることと推測する。
心配無用である。
それを解消するためのギミックがこの橋にはあり、それをサポートするのがこの両遮断器なのだ。
歴史ある手結港
9:58。まだ間に合うな…。腕時計をチラリと見たあと、僕はそう判断した。
足早に手結港を紹介しよう。
手結港は1650年に築港に着手し、1657年に竣工したという。
つまり、今から350年以上も昔の話。
ここは南側が半島だし、そして西に口を開けた湾状になっているしで、高波から船とかを守るにうってつけの港となる立地だったんだって。
湾を見渡すと石垣が残っているんだけど、これはその350年前とかのものもあるらしいよ。下の石ほど、古いらしい。
この石垣の厚さが、そのまま歴史の厚みよ。
四国の太平洋側といえば台風銀座だけども、その風雨や高波に350年間耐えてきたのよ、きっと。
あ、湾の中に突き出た半島的なところに、常夜灯もある。
もちろん今は使われててはいないだろうが、僕はなぜか常夜灯が好きだ。いつのものかは知らないが、これも撮影しておく。
跳ね橋が動き出す
10:00。
カンカンカンカン…!
踏切が鳴り出した。警報灯が交互に赤く点滅する。
来たーー!!
さぁさぁさぁさぁ!!
僕はどっちで待機する!?此岸?彼岸?
実はこっちと向こうとでは、見えるギミックが違うのだ。しかし選択できるのは1回につき1つだけ。
よし、僕は南側を選ぶぞ。
遮断器が下がる。僕は橋にカメラを向けてスタンバイする。
ズオォォォォ…!!
そんな効果音を感じさせながら、僕の目の前で突然道路が持ち上がった。
手結港可動橋は、そのネーミング通りに可動する。橋の片方が大きく空へと持ち上がるタイプの跳ね橋なのだ。
普通動いちゃいけない道路。生活上、土台として一番しっかりしていなきゃいけない地面。それが持ち上がる不安感と非日常感が僕の中で入り交じり、アドレナリンとなって放出される!
なんかもう、おなかがフワッとしてしまう気分!
素早く横方向に回り込む。
うおぉ、かっこいいぜ!
「あのくらいならまだ僕は、自転車で坂を下れる!!…あ、もう無理!ブレーキ効かない!!ダメこれ!!」などと妄想する。
そうこうしているうちに、その橋は裏面を僕に晒す。
ゴオォォォォ…!!
って持ち上がる。
…ド迫力!!
手結港可動橋の長さは32m。いったいどれだけの重量があるのだろうか?
それが地球の引力に逆らい、ゆっくりと6分をかけて上を向く。
このタイミングで、僕は橋の向こう側に回り込むことにした。
もちろん橋は現在空を向いているので直接渡ることはできないが、そもそも手結港はそんなに小さな港ではない。
港沿いにグルッと回り込んで反対側に行けばいいのだ。そのルートは事前に確認してある。
手結港の外側は、昔ながらののどかな民家で囲まれている。
その路地を若干ハァハァしながら僕がやってきましたよ。
自宅の前の木の下にイスを出してノンビリと港を眺めているじいちゃんの前で、再び僕は橋に向かってシャッターを切る。
マジでかっこいいーー!!
この光景は大好きだ。
ほのぼのノンビリの港の風景と、その奥でのただならぬ事態。日常と非日常のコラボレーション!
ところで橋、これで上がりきったよね。
可動橋が動く理由は、その下を船が通るため。逆に言えば船が安全に通れる角度まで橋が持ち上がれば要件は満たすのだ。
この橋、そう考えると必要以上に持ち上がってくれている。
本来の趣旨を超越し、オーディエンスを盛り上げにかかってくれている。サービス精神が旺盛だ。
さて、この橋はいったいいつまで上を向いているのか。
それは、橋のたもとにちゃんと時刻表があるので紹介しよう。
下の方、ちょっと文字小さいけども読めるかな?
だいたい1時間おきに、橋は開いたり閉まったり。
ちなみに夜間は橋は開きっぱなしで、船は門限とか無しにフラッと出かけちゃたり、そうやって深夜に非行に走っちゃって家族に心配されたりとか、そんな仕様。
逆に言うと、橋を車が通行できるのは日中帯の7時間だけなのだ。
さらに言うと、毎回ここで「あー、また橋が開くまで時間かかるやー。またいつか高知に来た時に見ればいっか。」ってなって空振りしていた僕の不幸レベルは、それなりの評価をもらっていいレベルだ。
橋の反対側までやってきた。
…壁。
道路でできた壁。
それ以外の感想が即座には思い浮かばなかった。
ただ、普段は見下し、足とタイヤで踏みつけている道路に逆に見下されている光景。普段と逆の立場。それに恐れおののいた。
あるわー。僕ってば精神が割と子供だから、こういう悪夢を見そうだわー。
そんでさんざん道路をタイヤで踏みにじってきたから、きっと死んだらこういう地獄に落とされるわー。
道路様、いつもありがとう。
僕、いつか道祖神じゃなく道路神とか祀って供養するわ。
さぁ、聳える壁との記念撮影も済んだ。
愛車は向こう側だから、また港を回り込んで戻ろう。
残念ながら船が橋の下を通る光景は見れなかったが、日本で数少ない可動橋の動くさまを見れて大満足した。
橋マニアとして、感無量だ。
男の子はみんな変形ロボットとか好きだからさ、これも同類。
オトナになってもワクワクが止まらない。
可動橋とは?
ホント可動橋って、かっこいいよな。
そのうち他のタイプのものもこのブログ内で紹介する予定だが、この機会にちょっと整理をしておこう。
可動橋は、基本として橋の下を船が通る際に、橋がジャマにならないように動かせるようになっているもの。
どんな風に動いて、船の通るルートを確保するのか。
いくつか種類がある。
すごいよね。旋回するタイプのヤツとか、見てみたいなー。
では、日本国内には可動橋はいくつあるのか。
既に動かなくなっちゃっているものを除くと31箇所なんだとか。
これは前述のWikipedia情報なので、興味がある方は実際にWikipediaにアクセスしてほしい。
次に、この手結港可動橋と同じ跳開(ちょうかい)橋はいくつなのか。
上記の12箇所だった。この手結港可動橋を入れて、全国に13箇所。
全国に橋が無数にある中の、たったの13箇所。
ましてや、毎日何回もパカパカと開いたり閉まったりする橋はそう多くはない。
可動橋はいつも動いているわけではなく、本当に非常時の際にだけ動くタイプもあるので。だからこの出会いは貴重なのだ。
維持管理費もかかり、交通規制も多く発生する可動橋。この先どんどん造られるとはとても思えない。減っていく一方なのかもしれない。
だからこそ、大事にしていきたいね。
歴史は壊すのではなく、積み上げていくもの。
手結港の石垣のように。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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