ほとんど知名度がないにも関わらず、1度見たら一生忘れないようなビジュアルの滝が、秋田県の男鹿半島の深部にある。
その滝は、「男鹿大滝」と呼ばれることが多い。
なので、このブログでもその呼び名で統一しようと思う。
なぜこの滝がすごいのか。
- 滝を裏から見ることができる
- 滝が岩盤に空いた穴を通過しながら流れ落ちる
この2つの特異な要素を同時に満たすからだ。どちらか1つだけでも非常にレアなのに。
これは例えると、将棋のタイトルを獲得しつつも、余暇にエベレストに登頂するくらいにすごいことだ。
(藤井七段、ダブルタイトル戦がんばれ。ついでにエベレスト、登っちまえ。)
それでは、この奇跡の滝を、今宵あなたに紹介しよう。
男鹿半島の奥地へ
ホントに、無知ほど恐ろしいものはこの世にない。
僕は既にドライブの旅も日本6周目に入っている。男鹿半島も何度も走っている。
にもかかわらず、近年までこの滝の存在を知らなかったのだ。恥ずかしい限りだ。ドライブも人生もベテランの域に入ってきているつもりだったのに、こんな素晴らしいスポットを知らなかったとは。
今回、しっかり夏になるのを待ってからの、満を持しての訪問だ。
男鹿大滝は、上の写真のように「大爆(おおたき)」と呼ばれることもある。
ちなみに男鹿半島には「門前大滝」というのもあって、それは「大滝(おおたき)」と略されたりする。
なにがなんだかわからない。悪意すら感じるネーミングだ。
とりあえず、行く際には間違えないように注意だ。
地元の人に「おおたきって、どこですか?」とか聞くのは相当なリスクが伴うぞ。
ウハハ、道が結構狭い。
しかし今回は軽自動車をレンタルしてきちゃったので狭くても大丈夫。自家用車は諸事情あり、レンタカー屋に預けて来ちゃった。
しかし軽自動車であっても、もし対向車が来たら絶対にすれ違うことは不可能。
まぁそのときはそのときで考えるわ。
…そのくらい、心がおおらかになる天気。
青空と緑。気持ちがいいことこの上ない。
360度草原のようなこの地に、僕以外の人間は一切いない。
あまりの気持ちよさに、こうしてところどころで車を停めて写真撮影をしてしまう。夏は日が長い。ゆっくりゆっくり、楽しもうじゃないか。
…って思っていたら、なにこのジメッとした展開は。
ポカポカニコニコのピクニックからいきなりの、「ブレアウィッチ・プロジェクト」みたいな暗転。なにこの叩き落された感。
「怖いな~、怖いな~、なんか嫌だな~」とつぶやきながらハンドルを握る手にも力が入る。
道の行き止まりまで来た。
そこがどうやら男鹿大滝の駐車場となっているようだ。
意外なことに、僕の他にもう1台車がいた!
「これで仄暗い森の中を1人で徘徊しなくて済むぞ」ってちょっとホッとした矢先、僕が駐車場でガサゴソ準備をしている間にその車の人、戻ってきてしまった。
はい、1人。1人で男鹿大滝攻略に行きますよっと。
ここで必要なのは、サンダルとタオルと…、
ひとカケラの勇気だ (←左胸をこぶしで叩きながら)。
理由は後述。ではGo!!
滝までの沢歩き
駐車場から滝までは徒歩で15分ほど。
それは別にいいんだけど、特徴的なのは、滝までの間に川を9回ジャブジャブ横断する必要があるということだ。
ちょっと専門的な言葉を使うのであれば「渡渉」ね。
こんな感じだ。どこぞのアマゾンの奥深く、みたいな雰囲気だ。
道がどこにあるのか、あいまいだ。
しかし正解は、倒れている丸太の進行方向に沿って川に入り、対岸のベッチャリとした泥の大地に上陸するルートなのだ。
ここで僕は靴と靴下を脱ぐ。そしてそれらをスーパーのビニール袋に入れる。入れ違いでそのビニール袋から出てきたサンダルに足を通す。
そしてレッツ・入水。
あー、気持ちいい。夏だから渓流が冷たくて 清涼感この上なし。
ジャバジャバ歩いて楽しみ、対岸に上がったらタオルで足を拭き、靴下と靴を履く。
…1分後、また川渡り。
これは画面左のゴツゴツした河原に上陸後、左奥に向けて「サラダ菜の王国」みたいな部分を踏みつぶしながら行くのが正解だ。
また靴と靴下を脱ぐ。
そんで対岸に渡ったら足をタオルで拭く。
…面倒だ…。
しかし、僕って人一倍皮膚が弱くってさ。濡れた足のままサンダル履いて歩くと、その摩擦で足の皮がベロンと剥がれる系の人種。
キチンと足を拭かずにハダシのままスニーカーを履いても、たぶん靴擦れする。だから1回1回足を丁寧に拭いて、そして靴下も履くの。
ウェーイ。また川だ。
9回もこういう渡渉をしなければならないのだ。冒頭で書いた通り、滝まで徒歩15分。ってことは、「15分÷9回」で、平均1分40秒ごとに川を渡らないといけない。
その度に脱いだり履いたり、やってられっか。
だんだん気持ちが荒ぶってきたぞ、僕。
あー、もう道がどこだかわからない。なにがなんだかわからない。
しかし、ここは滝の下流の渓流だ。
道なんてわからなくっても、この水流を遡って行けば確実に滝なのだ。
だから、こんな山奥のジャングルみたいなところに1人っきりだけど、森の中で奇妙な鳥が鳴いているけど、うろたえるほどの不安は感じない。
ちなみに、後半はもういちいち靴をチェンジするの辞めた。
もういいや、足の皮くらい剥がれたって。
そしてサンダルで砂利道をザクザクと歩いていると、 土踏まずが異様に痛い。サンダルと足の間に小石でも入ったのか?
足を浮かせ気味に歩き、挟まった小石がどっかにフェードアウトしてくれることを期待したが、小石は頑なに土踏まずの同じ位置を刺激してくる。非常に痛い。
「なんなんだよ!」と思って足を見てみると、サンダルの底から石が貫通して、土踏まずに接触していた。
マジか。これは痛いハズだ。
ひとまず石を引き抜いておいた。
このサンダル、これでサヨナラだな。確か数100円の安物だからいっか。この冒険が終わったら、安らかに眠れ。
てゆーか、ちゃんと足首やカカトまでホールドしてくれるお気に入りのサンダルがあったのに、なんでこんなツッカケみたいなサンダル持ってきちゃったんだろう…?
そんなこんなで歩くこと10数分、前方に見えてきたぞ、男鹿大滝が。
奇跡の滝との邂逅
男鹿大滝と、ついに対面。
こぶりだが他の滝にはない、強烈なアイデンティティを秘めているその滝。それが静かに僕の前に姿を現した。
大滝という名前ではあるが、正直そこまで大きい印象はない。
見えている部分だけで、落差10mほどだろうか?
見えている部分については、とりたてすごい特徴があるわけでもない。
そう、この滝の最大の特徴は、ここから見えない部分であり、そしてここから見えない理由である。
もしもあなたが、上の写真の位置まで到達し、この写真を撮ったところで引き返してしまうのだとしたら、それは物事の本質を見れていないことになる。
例えるのであれば、鍋を食って、残った汁を捨ててしまったようなものだ。
違うだろ。残った汁で雑炊を作ってこその、鍋の神髄だろう。ダシの旨味と具材からのエキスの織り成すハーモニーは、まさにこの世の森羅万象だろうが。
そういうこと、言いたい。
あと、鍋の季節じゃないのに鍋を語って誠にすみませんでした。
いいか!?最初に僕は9回の渡渉があると書いた。
ここまでは、まだ8回だ!
もうここまで来たら、8回も9回も一緒でしょ?
最後の1回を踏み出した者だけが見れる光景が、これだ!!
穴。
滝が天井のような岩盤にポッカリと空いた穴を通過して流れ落ちている。
これだ、これを見たかったのだよ。
いったいこの滝はどこから生まれているのか。どこから流れ落ちていて、本当の落差は何mなのか。それはここからは伺い知ることはできない。
しかし、僕の目の届かない天上界を突き破って落ちてくる、この水流。否、水龍。魂が震える光景じゃないか。
穴越しに見える、向こうの世界は輝いている。
あっちは極楽か、って感じに。
さぁ、ちょっと頑張った人でもここいらで引き返しかねないが、僕はもう少し滝に接近しようと思う。
タイトルで書いたが、この滝は裏から見ることができるのだ。
そんな情報を入手したからには、何が何でも裏から見てやろうと思うのだ。
わかりやすくするため、写真の明るさを調整してみた。
矢印の通り、これから滝の横の急斜面をよじ登って、滝の裏に入る。
斜面はなかなかに暴力的な角度。しかも飛沫でビショビショに濡れているし、強度がもろくてボロボロ崩れるし、そしてこっちは安物のサンダル。
両手足を使ってなんとかよじ登る。
次は、滝の背面に向かっての水平移動。
頭上からの飛沫がすんごい。しかも、ちょっとでも足を滑らせたら、滝つぼにドボンですよ。気を付けながら、カニ歩きだ。
うわー!!降ってくるーー!!
すっごい迫力。僕の耳にはもう「ドドドドドドドドド!!!」っていう音しか聞こえていない。地球の鼓動だ。
見とれてしまうが、あまりに見とれすぎると足元がおろそかになるので注意だ。
あともうちょっとだけ、滝の裏側に入り込もう…。
天国からのシャワーかよ、これは。
この水を、この黄金色の光の中の浴びたらさ、あらゆる煩悩が浄化されるのではないだろうかね?神々しい。そのひとことだ。
完全にピッタリ滝の裏での写真ではないが、この時間帯はこの位置が一番滝が映えると判断した。
僕はビシャビシャにに濡れた眼鏡の奥で、ニッコリと笑った。
その類い稀なる造形
日本は国土面積に対し、山岳地帯が多い。
ということは、その複雑な地形に伴い川も多く、そして滝も多い。
日本には、いったいいくつの滝があるのだろう?
Wikipediaによると、諸説あるが2500~15000ほどという。
すげーブレ幅だ。
まぁ、それだけ未知の部分の多い、掘り起こし甲斐のある業界ということで。
そんな数多くの滝の中で、冒頭に記載した通りに以下の2つを併せ持つことが、この滝の特徴だ。
- 滝を裏から見ることができる
- 滝が岩盤に空いた穴を通過しながら流れ落ちる
それぞれのレア度を少しだけ調べてみることにした。
裏見の滝
裏から見ることのできる滝を、裏見の滝という。
裏見の滝は、国内にいくつあるのだろうか?
まとめサイトとかなんやかんやを見てみると、8選・10選・14選など出てきたが、一番網羅性が高いのが、Wikipediaな気がする。
Wikipediaに記載の国内の裏見の滝は20箇所。しかし近年崩れて裏側が喪失してしまったり、裏に回り込む遊歩道が危険で通行止めになっていたりで、現時点で到達可能なのが17箇所。
だけども、この17箇所の中の男鹿大滝が含まれていない。
これを加えて18箇所。数1000はあろう国内の滝で、裏見の滝とはこれだけレアなのだ。
ただし僕は考える。
なぜWikipediaに男鹿大滝が掲載されていないのか。
理由は2つあると推測した。
1つは、男鹿大滝があまりに知名度が低いため。これは大きな要因の1つであろう。
2つ目は、「裏見の滝」の概念について。
「滝を裏から見ることができる」とは、論理的には瀑布の裏に人1人が立てるスペースがあればよい。
男鹿大滝は、観光面から言えば向かって右側の「無理矢理…」側にあたるのではないかと思う。
そもそも滝に行くための遊歩道すら脆弱だし、滝の裏に行くためのルートはもはや「道」ではない。
もしかしたら「滝の裏に若干の空間はありますよ。そして自己責任で滝を裏から見たいのであれば、その難易度はそこまでは高くないですよ。」という状態なのかもしれない。
結論を言うと、裏見の滝の概念は「瀑布の裏に人が立てる」ではなく、「瀑布の裏に人が立てるような配慮を行政がしている」だと思う。
しかし、滝の造形面から言えば、左の「一般的な…」になると思うのだ。
左右の大きな違いは、瀑布の裏側が大きくえぐれているかどうか。男鹿大滝は、このえぐれを確かに持っている。
立体感のない写真で申し訳ないが、赤く囲った部分は柔らかい地層だ。
もう写真で見た時点でわかる。赤くてボロボロの地層。右下部分は草に覆われてわかりづらいが、僕自身が両手両足で這い上がる際に身をもって確認した。ボロボロだった。
反して青く囲った部分は固い地層だ。もう写真で見ても黒光りしている。
ここで、一般的な浦見の滝のライフサイクルについて説明したい。
柔らかい地層の上に固い地層がある場合、その滝の成り立ちは上記のような感じだ。滝の、そのほとばしるエナジーで下半分がえぐり取られ、「③」の段階で裏見の滝となる。
こういう地層は少なくはないと思う。にもかかわらず裏見の滝が18箇所しか存在しないのは、安全面(観光客を受け入れるかどうか)によるところが大きいのではないかと思うのだ。
貫通滝
岩盤の穴を通過して流れ落ちる滝について、Web検索しても明確な名称が見つからない。なのでここでは「貫通滝」と呼ばせてもらう。
貫通滝は全国にいくつ存在するのか…。
決まった呼び名がないので検索に手間取り、正確性にも自信がないが、片っ端から検索して6つだけ見つけた。
…男鹿大滝を入れても、たったの7箇所!?
前述の裏見の滝よりも定義がはっきりしているにもかかわらず、この程度しか存在しないのか…。
ちなみに、裏見の滝かつ貫通滝は、男鹿大滝以外には見つからなかった。日本で唯一の、双方の特性を持つ滝なのかもしれない。
ところで、貫通滝はどうやって作られるのだろうか?
Webで調べても見つからなかったので、勝手に想像する。
あー、これはダメだー。
貫通するということは、滝の水流がダイレクトに柔らかい地層に当たるのかなって考えて上記をイメージしてみたが、ただの2段滝になっちゃった。
穴を開けるということは、圧力のかかり方が一点集中じゃないとダメだよね?
「食欲の失せる日の丸弁当でグランプリを取得」みたいな絵を描いてしまって恐縮なのだが、これは岩盤と水流を上から見た図なので堪忍してほしい。
結論からいうと、岩盤に穴を開けるのは斜面を流れる水ではなく、上から落ちてくる水だと判断した。(甌穴のような例外もあるだろうが、それは置いといて)
滝が岩盤を直撃し、長い年月でそこに穴を開ける…。
でも、穴が開く前は?
中空に浮かぶ岩盤に滝が直撃する。その岩盤を水流が流れ落ちる…。
つまりは、2段滝??
ここで、僕は少し前に書いた内容を思い出した。
全国の貫通滝を洗い出した際に、「1. 二段滝(兵庫県豊岡市)」と書いた。
ちょっと気になって詳細を調べてみた。
するとこの滝、近年(少なくとも二段滝とネーミングされた際)は、名前の通り2段の滝だったのだ。それが、岩盤を貫通することで最近に貫通滝となった。
これだ!
ここから、男鹿大滝の成り立ちも想像できるんじゃないだろうか?
…こう考えたらどうだろうか?
他にも可能性があるのだろうが、こうやって自分で推理するのは面白い。
最後にもう一度、これを踏まえて男鹿大滝の全景を見てほしい。
同じ穴とはいえ、僕の安物のサンダルとは比べるべくもない。
きっと気の遠くなるほどの歳月をかけて、奇跡的に実現した、日本で唯一の裏見貫通滝。
それは人知れず、男鹿半島の深部で歴史を刻む。
僕らが今見ているのは、その過去から未来までの果てしないストーリーの、ほんの1コマなのだろう。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 男鹿大滝
- 住所: 秋田県男鹿市北浦西水口大滝沢
- 料金: 無料
- 駐車場: あり。しかし滝まで徒歩15分。渡渉箇所が多いため、季節・直前の雨量・装備に充分注意のこと。
- 時間: 特になし。しかし暗い時間は自殺行為。