滋賀県北東部のみに存在する、サラダパンというご当地パンがある。
さあ、あなたなりのサラダパンを脳内に思い浮かべてくれ。
そしたら次。そんなパンは記憶の奥底の箱にでも厳重にしまいこみ、封魔の札でも貼っておいてくれ。
そういうね、ありきたりな思考は今回いらないから。常識を持ち込まれても、きっと混乱するだけだから。
それでは、「パン屋さんにパンを買いに行く」という、子供のおつかいみたいな僕の物語を一緒に振り返ってほしい。
…ただし、あなどるなかれ。そのパンは…。
1度目の入手失敗(総本山)
ごはん派かパン派かで言えば、圧倒的にパン派。
僕はそういう人間だ。
この日もそうだった。滋賀県の琵琶湖を一周ドライブしており、おなかが減った。
パンを食べよう。ちょっと遅めのランチはパンだ。
つるやパン。僕のターゲットである"サラダパン"を製造・販売している世界で唯一のパン屋だ。木之本駅から歩いて行ける距離の路地にあるぞ。
ちなみにこのパン屋、壁に巨大コッペパンがめり込むという、ワイルドな事件を演出している。知らんけど。
うふふ。さて、サラダパンを買うぞー。
ワクワクしながら店内に入ろうとする。
しかし、そこで僕の表情を一瞬で硬直させる、無情なプレートが目に入った。
「サラダパン 売切れました」
え?そういうことってある?
いやいや、ジョーダンでしょ。まったくもう。
信じられない気持ちで店内に入る。
しかし、"サラダパン"のコーナーには何もなかった。否、虚無がそこにあった。
バカな…。今までウキウキしていた僕がいた世界とこの世界は、果たして同一なのか。
どこかのパラレルワールドには、今頃おいしそうにサラダパンを食べている僕がいたりするのか。
そんなことを考えてしまうくらいにショックを受けた。
呆然と店頭に佇んでいると、ツーリングのグループが登場した。
そして僕と同じく、サラダパンが売り切れていることに愕然としていた。
チラッとその人たちの会話が耳に入ったんだけど、どうやら昼頃には売り切れていたらしい。なんという人気よ。恐ろしいパンよ。
本筋から反れるけど、やさぐれた気持ちを癒すため、木之本地蔵院ってとこに入った。
ここはつるやパンのほぼ向かいにある。さっき車でウロウロしたときにハデな幕が気になったのでね。
やれパンだごはんだ、などという低俗な煩悩を退散させる。仏門に入って、悟りを開く。そういう覚悟。
あ、お地蔵さんデカい。
高さは6mあり、日本最大ともいわれているそうだ。そして日本三大地蔵の1つでもあるそうだ。なんかかっこいい肩書きだね。「我は四天王の1人…」みたいな。1人分足りないけど。
あと、日本一大きいお地蔵さんって、ほかでも何か所か見聞きしているけどな。
ま、いっか。僕はこの世の森羅万象全てを包み込むような、おおらかな精神を手に入れたいのだし。 そういう細かいことを気にしていたら悟りを開けぬ。
お参りをし、スッキリ爽やか、穢れが落ちた。
1つのパンに固執する人生とは、もうサヨナラよ。
さぁ前を向いて、ドライブ再開だ!
2度目の入手失敗(数々のスーパー)
つるやパンを出発してから数10分後…。
僕は悔しさから般若のような形相となっていた。
やっぱ無理。サラダパンを諦めきれない。てゆーか、腹減った。もう15:30だというのにランチ食べてないんだもん。どなたか、この哀れな小男にパンを恵んでくだされ。
サラダパンは、地元のスーパーにも卸されいると聞いたことがある。
琵琶湖を南下しながらキョロキョロしていると、地元密着型っぽいスーパー発見。
…って、これなんて読むんだよ。字が汚いよ。二日酔いの人が書いたのかな?
valor(バロー)というらしい。東海地方を中心に出店しているスーパー。
ここであればサラダパンもあろうぞ。
うん…、なかったよ。
パンコーナーの周りをグルグルと盆踊りみたいに何周もしたけど、なかったよ。
売り切れているのであれば、置かれていた痕跡(ポップもしくは空の商品棚など)があるはず。しかしそれすらない。つまりこのスーパーでは取り扱っていない。
非常に狭い範囲でしか購入できないパンとは聞いているが、まだここは木之本からそんなに離れていないぜ。
どれだけ幻なのだよ、サラダパン。都市伝説クラスか。UMAか。
さらに長浜駅の東口に駐車しようとしたらどこも満車。しょうがないから線路を越えて西口までやってきたら、こっちも満車。
しばらく駐車場の前の車列に並び、空きが出るのを待つ。
なんでこんなことをしているのか、だって?
サラダパンよ。長浜駅ならサラダパンを売っているのではないかと思って来たのよ。
でも、この渋滞と駐車場混雑。
みんな僕と同じようにサラダパンを狙って滋賀県北東部に集っているのではあるまいな。疑心暗鬼に磨きがかかるぜ。
長浜駅、レトロなデザインだぜ。よく知らないけど、明治時代の初代駅舎のデザインを踏襲しているそうな。
長浜駅の西口には、長浜城も聳えている。こっちはもっとレトロだぜ。
もうね、これはレトロっていう表現をしていいかどうかも微妙だけど。
長浜駅東口にやってきた。
平和堂である。
平和堂は、滋賀県を中心に毎日の暮らしに必要なものを取り揃えた小型の生活便利店と、楽しく豊かな暮らしをお届けする大型ショッピングセンターを組み合わせて出店することで、より地域のお客様に密着した店舗展開を進める考え方をしています。
(引用元:平和堂ホームページ)
フフフ。ここならコンセプト的にも期待が持てるぞ。
僕もバカではございません。さっきバローでサラダパンが見つからなかった時点で、ネット調べた。平和堂においてあるケースが多いと書いてあった。
ならば琵琶湖東部のこの店舗であれば、絶対にあるはず。
ない
あれー、おっかしいなー。なんでかなー。
この、頬を伝うものはいったいなんなのかなー。
彦根市の夕暮れ。
ここでまたもや平和堂を見つけた。
一縷の望み!最後は笑ってハッピーに!
…5分後。
僕は打ちひしがれて、駐車場から夕焼けを眺めていた。
「フヘヘヘ…、平和ってなんですかー?」って顔で。
ダメだ。四面楚歌。
イエスは答えて言われた、『人はパンだけで生きるものでは非ず』
(引用元:聖書 マタイによる福音書)
でもさ、生きるためにパンほしいし。
神は我にパンを与えてはくれないのか。
夕焼けは、ただただ綺麗であった。
3度目の入手失敗(高速道路)
前項の1週間後。僕は再び動き出す。
今回は兵庫県の竹田城だとか福井県の若狭湾だとかを巡る1人旅をしていたのだが、その帰り道に期待を込めている。
北陸自動車道の賤ヶ岳SA。つまり高速道路だ。
僕は、サラダパンをがこの賤ヶ岳SAでも販売されているという事実を掴んでいた。
多くの観光客の往来のある高速道路のSA。
普通に考えて、ここに大量にパンを卸しておかない理由がない。
ハッハッハ。今回は僕の勝ちですな。
ではでは、サラダパンをいただこう。ニコニコしながら売店に足を踏み入れる。
…惨敗!
またしても空振りか。時間が遅かったのか。
サラダパンコーナーは、亡者のごとく群がる貧民によって根こそぎパンを奪われ、荒野と化していた。
ここで1つ豆知識。
上のパンコーナーの写真は、実はその時に撮影したものではない。その時はショックで写真すら撮れなかったから。
それがいったい何を意味するのか。
賢明なあなたならおわかりと思うが、僕がその後再び賤ヶ岳SAを訪れ、サラダパンを買おうと思って買えなかった。
そういうことだ。
かわいそうでしょ。
近くて遠いサラダパン。まだ見ぬパンに恋焦がれ。
パンがないなら、ケーキを食べればいいじゃない
引用元:ジャン=ジャック・ルソー「告白」
その発言がもし事実だとするならば、ちょっと滋賀県にマリー・アントワネット連れてこい。そいつ、サラダパンを何もわかっていないから、僕が小一時間説教する。
4度目にて入手(総本山)
さらに前項から1週間が経過した。
これで3週間連続のサラダパン探訪の旅である。その執念たるや、恐るべし。
オラー、来たぞコラー!
木之本駅前の無料駐車場に、愛車のHUMMER_H3をドカンと停める。
よーし、これから総本山に殴り込みじゃあー!
そんな勢いで、鼻息も荒く、2週間ぶりのつるやパンを目指す。
この日の僕には勝算があった。
つるやパンの開店時間は曜日によって違うものの、8時か9時。
そして現時刻は9:30。ちょっと遅れたけど、開店を狙ってやってきたのだ。
さあさあさあさあ!!
生涯初のサラダパンが我が前に姿を表すぞ!!
宝の山だーー!!
黄金色に輝くそれらは、まさに小判!ここはエルドラドか!!
1個140円。
10数個残っていたその中から2つを素早く購入した。
近年TVで紹介されたりして、爆発的人気のサラダパン。完全に需要が共有を上回っており、購入時も個数制限があるのだ。
なんにせよ、購入できてよかった。
クリスマスの日の子供のようにウッキウキで、商店街を走り、駐車場の愛車のもとへと帰って行った。
10数分後、「道の駅 塩津街道あぢかまの里」というところで車を停めた僕は、サラダパンを取り出した。
かわいい黄色と緑のパッケージよ。
ではでは、いただこうではないか。
そして食べる前に、パンをパカッと開いてみた。
何も挟まれていなーい!!
ちょっと店のおばちゃん、サラダパンに具を入れるの忘れていますよ!!
何も入っていませんよ!!
…あなたがそう思ってしまったとしたら、それは間違いだ。
とりあえず落ち着いてほしい。なぜなら、これがフォーマルなサラダパンの在り方だ。
まずは、このサラダパンの内側の写真を思いっきり拡大してみよう。
…おわかりいただけただろうか。
向かって左側、マヨネーズの中にわずかに見える"ソレ"が。
視力0.1とかの人であれば気付かないかもしれないが、確かにソレはソコにある。
正解は、たくあんだ。
サラダパンの正体は、たくあんをマヨネーズで和えてコッペパンに挟んでいる。
「たくあんなのになんでサラダパンっていうネーミングなんだよ…」と思われる方もいれないが、「たくあんは大根。大根は野菜。野菜だからサラダ。だからサラダパン。」と言われている。
体重3ケタのアメリカ人が「ピザにはいっぱいトマトソースが使わわれているから、ピザはサラダ。サラダだから健康。」という理屈でピザをバクバク食べているような強引さを感じるけどな。
尚、つるやパンの公式サイトを見ると、サラダパン誕生の経緯が詳しく書いてある。
こうして1962年に現在のサラダパンとなったそうだ。長い歴史よ。
だから、サラダパンのパッケージの緑と黄色は、キャベツとマヨネーズの色から来ているのだそうだ。決して、「たくあんの黄色」ではない。
食べてみた。
たくあんのコリコリした食感と絶妙な塩味、それとマヨネーズがそれなりに合う。メッチャうまいっていうレベルではないが、また食べてみてもいいかなって感じ。
なにより忘れてはいけないのは、僕の目的は「うまいパンを食うこと」ではない。
「サラダパンを食うこと」だ。
僕は、琵琶湖のほうに向かってガッツポーズをした。
おまけ:サンドウィッチもあるよ
数ヶ月後…。
サラダパンを追い求めた初秋から季節は流れ、桜の時期となった。
21:00近い賤ヶ岳SAにて、ふと売店を覗いてみた。
サラダパン!!
こんな時間に出会えるとは!
そして、前回はサラダパンに夢中すぎてつるやパンの店内でも目がいかなかったが、"サンドウィッチ"もあるぞ。
実はこれ、何気につるやパンの中では人気No.1のメニューなんだとか。
サラダパンがNo.2。
よーし、両方食うぞ!
サラダパン5
まずはサンドウィッチからいただこう。
円形のパンに魚肉ソーセージにマヨネーズ。ただそれだけ。
これもまた、50年以上の歴史を持つパンなんだとか。
味は想像通り。マヨネーズと魚肉ソーセージ。
だがこの安定感が、地元のリピーターを獲得し、一見さんに好まれるサラダパンを凌駕しているのだろうな。
2度目のサラダパン。
1度目と感想はまったく同じであり、特筆すべき点はない。
しかし、春の雨の日の夜、車内でサラダパンを食べた思い出は忘れない。
ちょっとこの先さ、数年間は滋賀県ドライブは打ち止めになると予測している。
なのでこれが一旦の食べおさめ。
だが、いつの日かわからないけど、きっとまた戻ってくるよ、つるやパン。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: つるやパン
- 住所: 滋賀県長浜市木之本町木之本1105
- 料金: サラダパン145円、サンドウィッチ145円
- 駐車場: なし。木之本駅に停めて徒歩7分ほどが無難と思われる。
- 時間: 月~土8:00~19:00、日・祝9:00~17:00